Park College #18

哲GAKU 第11回「中西メソッド×中西メソッドを知らぬ者」(前編)

Park Collegeでは、連続講座「中西哲生の哲GAKU」をオンラインで開催しています (毎月14日開催、全12回予定、無料)。

第11回目は、多くの企業のイノベーションに携わるビジネスデザイナーの濱口秀司氏をゲストに迎えて、実施されました。課題解決のアプローチ方法など、濱口氏の発想のユニークさは、サッカーだけでなく日常にも取り入れたい内容でした。

サッカーやスポーツの技術を向上させたい方も、スポーツにはあまり縁がない方、指導する立場の方も、さまざまな分野の知見をスポーツ技術に応用しコーチする中西哲生の視点から、ぜひ自身の学びや気づきに繋げ、楽しんでいただければと思います。

「受ける仕事の範囲がバラエティーに富んでいるんですが、基本はその道のプロではないので、何も知らないんです」(濱口)

2人のトーク中場面

中西哲生(以下、中西):みなさん、こんばんは。第11回『哲GAKU』へようこそ。今回はサブタイトルが『中西メソッド×中西メソッドを知らぬ者』となっています。「えっ、どういうこと?」と思われた方は多いかと思いますが、ゲストをご紹介します。濱口秀司さんです。

濱口秀司(以下、濱口):よろしくお願いします。

中西:濱口さんは世界初のUSBフラッシュメモリーのコンセプトをはじめ、ビジネスデザイナーとして多くの企業のイノベーションに携わっていらっしゃいます。そして、事業戦略と立案をリードされている方でもあります。いまは基本的に、アメリカに住んでいらっしゃるのでしょうか?

濱口:はい。数年前まではクライアントがアメリカ、もしくはヨーロッパだったこともありまして。日本人だし日本のこともやってみようかなと思って、5年前ぐらいからのこのこと戻ってきた感じです。ただ、ベースはアメリカです。

中西:いまお仕事をされている企業は、海外よりも日本のほうが少ないですか?

濱口:そうですね。それまではアメリカとヨーロッパのクライアントが100パーセントだったんですが、日本を含めて3分の1ずつぐらいのバランスをコロナ前に作り上げていて。いまはもう、それに近いですかね。

中西:濱口さんのことを知らない方もいると思いますので、いくつか質問をしていきますね。まず、普段はどういう生活をしているのですか?コロナで日本に居る時間が長いと思うのですが、日本の企業とオンラインで話をしたり、海外の企業ともオンラインで仕事をしたり、と言う感じでしょうか?

濱口:基本的に対面を好むので、対面で仕事をするのですが、コロナの関係でオンラインでの仕事が増えました。

中西:企業でいうと海外が多いとのことですが、海外からの依頼はどういうスタンスで問題と向き合うんですか?

濱口:なかなかそれはグッド・クエスチョンですけれど、受ける仕事の範囲がバラエティーに富んでいるので、新商品開発をしたり、事業戦略を変えたり、会社のシステムで問題があるとか、サービスを新しく作り変えたりとか、色々とあるんですけれど、基本はその道のプロではないので、何も知らないんです。

中西:多岐に渡るということは、自分が得意、不得意ではなく頼まれたことはやっていこうというスタンスで?

濱口:そうですね。大学卒業後に松下電工(注:現在のパナソニック)に就職をしたので大企業のことは知っていて、そのあと中ぐらいの規模の会社をリードしたことがあり、ベンチャーもやったことがあり、コンサルティング側に移ってからも大企業、中企業、ベンチャーを相手に仕事をしてきているので、一応経験としてはひと通りやっていて。商品企画とか戦略だけじゃなくてローンチしないといけないので、製造とかサプライチェーンとかも見ることになっているので、経験上は全部分かっていて。ただし、どの部分の仕事が来るのかは分からない。なおかつ分野が違えばまったく新しい仕事で。ちゃんと頑張っているクライアントさん、苦しんでいるクライアントさん、何年間も仕事をしているクライアントさんのほうが、知識は明らかに僕よりも豊富です。僕が低い検索能力で調べて、こんな感じだねと言っても、それはもう全然浅はかです。僕の仕事のスタンスは、クライアントさんからお話を聞くところからスタートする感じです。聞くことが最初の仕事ですね。

「濱口さんにオファーする方々が考えていないことを探しながら、『それはないよ』と言われるようなことを投げかけるのが、ひとつ目の仕事かなと思うのです」(中西)

トーク中の中村憲剛

中西:とはいえ、準備はしていくのかなと思います。

濱口:コンサルティングのプロの方というのは、事前にブリーフィングがあって資料があって、ちゃんと仮説を立てていかれるんですけど、僕はまったくそれはないですね。むしろ、何もない状態でいきたいし、プロジェクトではよく事前資料をいただくんですけど、クライアントさんには読みましたと言いながら、実は読んでいません(笑)。

中西:ハハハハハ。

濱口:何もない状態で。で、最初の3分とか10分とか1時間がすごく重要で。人間があるセッションに入ったときに、本人が意識しているか、していないかは別として、最初にかなり重要なことを言うんですね。その温度感もあるので、僕のプロジェクトのスタートはそこからです。事前に準備をすることは基本的にないです。まったくゼロからです。

中西:その温度感のなかで、海外の企業の場合は最初の10分間はどうなのでしょう?

濱口:海外と日本の違いは、あまりないですね。外から見ると日本のほうが整然としていて、アメリカはああだこうだとスタートするんですけど、それは形だけの話で。

中西:濱口さんのアプローチも変わりませんか?

濱口:基本的には同じですね。相手の話を聞く。たとえば、こんなアイディアがあるんじゃないかと思いつく。それがクライアントさんにとってすごい答えになることなんて、あるわけがなくて。なぜって、自分はプロじゃないですから。むしろ、クライアントさんがどういうふうに考えているのかな、というのを見ています。ビジネスの戦いは企画している者同士の戦いで、そうすると、企画する人の考え方の傾向というものがある。その傾向は業界で似通ってきたり、ライバルが何かやったことに影響を受けてしまったり、何かしら偏ったりするわけです。僕がいつもトラッキングしているのは、話をしながら、「なぜこの人たちはこういう考えかたをするのか」というパターニングだけなんです。それは、物事の切り口をパターン化することもあれば、この問題を解決するのにどういうアイディアがあるんですか、という聞きかたをして、こんなアイディアがあるんだよみたいな話を聞きながら、そのアイディアの傾向とかを探るんです。そこには必ず非対称性があったりとか、ズレがあったりとか、傾向があって、その傾向を外すというのを狙っています。傾向を外したものを言うと、プロの人たちは「そんなのないよ」と言うわけです。なぜかというと、普段そう考えないから。

中西:自分たちが普段考えないことを、濱口さんは確信的に言うのですね。

濱口:そうですね。それをランダムに投げて当てるというのはできないので、やっぱり思考傾向を探る。それを一人、二人、三人と聞いていくと、絶対に傾向があるわけで、そのパターニングをして、違うものを投げて試していく。その時点ですでにそれは新しい発想で、それが実行可能かどうかは分からないけれど、彼らが考えたことがないものを作っていく。そういうアプローチになります。

中西:相手の思考傾向を探る。スポーツで言うところの徹底したスカウティングですね。

濱口:「いままでの方法ではないものを見つけたいんです」と言われたときには、プロが考える傾向を探るのが一番重要になってくると思います。

中西:濱口さんに実際にオファーする方々が考えていないことを探しながら、彼らに対して「それはないよ」と言われるようなことを投げかけるのが、ひとつ目の仕事かなと思うのですが。それは日本企業でも海外の企業でも変わらないですか?

濱口:同じですね。

「スティーブ・ジョブズは半分天才で、もう半分は調子に乗ったおっさんだと思うんです」(濱口)

2人のトーク中場面

中西:仕事を進めていくうえで、日本企業と海外の企業では求められるものが違うのかな、と思ったものですから。

濱口:進み方が違ったりはしますね。アメリカはご存じのようにヒエラルキーがしっかりしていて、意思決定の階層が決まっている。決まったあとのスピード感は、アメリカのほうがあると思います。日本は意思決定構造がぐにゃぐにゃしていたりするので、進みが遅いというのはあります。ただ、それが悪いわけではなくて、意思決定構造がしっかりしていないというのは、逆に言うと若い人、中間管理職の人が、社長はどう考えるのかというところをおもんぱかる。そうすると、自分の与えられている範囲以上のものを考えることになる。ものの見方によりますけれど、経営者トレーニングとか、スコープを広げるトレーニングという点で言うと、意思決定構造がカチッと決まっていないことをポジティブにとらえられるかな、と。アメリカは「俺の範囲はここだから」と、それ以上のことは絶対に考えないですからね。そこに違いはあります。

中西:僕は日本人の特性を引き出すとか、日本独自の考えかたとか、日本が歴史的にやってきたことが世界では特異なものであるとか、そういうものを探す傾向があって。それは僕自身のメソッドが世界に対してどうやって戦っていくか、という前提があるからなのですが。

濱口:なるほど。ひとつ面白いポイントしては、調子に乗るか乗らないのかというがあって。アメリカ人は調子に乗る。日本人は乗らない。

中西:日本人はあまり乗らないですね。

濱口:あまり、ね。アメリカの子どもたちはけっこう甘やかされて育っていて、サッカーでも算数でも、ちょっとうまくいくと「すごい、お前は天才だ」とめちゃくちゃ褒め讃えられる。そういうカルチャーです。最近は両親がどちらも働いていて、家事をしているお母さんは少ない。ふたりとも働くのが常識なので、子どもたちは月曜日から金曜日までは学校へ行ったあとにデイケアとかで過ごす。なので、週末になると、親は子どもを溺愛する。

中西:なるほど……。

濱口:たぶん50年前よりもいまのほうが、アメリカの子どもは溺愛されていて、週末には「すごい」と言われて育っているので、自分は天才だと勘違いしている子どもがいるわけです。そうすると、ちょっとした成功でも本人は「オレ、天才かもしれない」みたいな感じでポジティブに考えていく。アメリカにはそういう傾向があります。日本はたぶん逆で、「お前はダメだ」とか「もっと頑張れ」と言われて育ちますよね。

中西:まあけっこう、そういう傾向にありますよね。

濱口:そうすると、ちょっと成功しても「まだまだだな」とか「みんなもっとすごいからな」と、下目に考える。この差はけっこう大きいと思うんですよね。ちょっとした成功からスパイラルアップして、「オレは天才じゃないか」と思っていく人たちと、とにかく抑えが効いていて、「まあちょっと、その辺だな」と思う人たちと…。

中西:まだまだだな、それなりだな、というのが日本人ですね。

濱口:これって、メンタリティ的にかなり違うと思うんです。

中西:違いますね。

濱口:スティーブ・ジョブズは半分天才で、もう半分は調子に乗ったおっさんだと思うんです。最初にAppleをやったときに成功しましたよね? あのとき彼は、「自分は天才だ」とたぶん思っているんですよ。どんどんどんどん自分は天才だと思っていて、iPodを作ったときもiPhoneを作ったときも、あれは音楽機器を作っているわけではなくて、自分が神だったとき、天才だったときにどうなのかという視点でものを見ていると思うんですね。すごく高い視点でポジティブにものを見ると、見え方も変わってくるし、発想も変わってきますよね。事業戦略を立てるときも、自分が神だと思ったらどうするんだというのは、けっこう重要で。

中西:神の視点ですか。

濱口:それは視点が非常に高いわけで。課長さんより部長さんは視点が高いし、部長さんより役員さんは視点が高い。でも神の視点はもっとすごく高いわけで、たぶんスティーブ・ジョブズは最後の最後まで自分は神だと調子に乗ったおっさんだと思うんです。あのパワーはすごいと思います。あまりステレオタイプで語りたくないですけど、日本人とアメリカ人の違いはそこですかね。

中西:アメリカの視点は高くてポジティブ。日本の視線はそれほど高くはなくて、自分で抑え込もうとする。ネガティブではないけれどフラットのようなイメージですか。

濱口:冷静だと思いますね。

(以下、後編へ続く)

テキスト:戸塚啓(スポーツライター)

Profile

中西哲生 Tetsuo Nakanishi

スポーツジャーナリスト/パーソナルコーチ。現役時代は名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレイ。現在は日本サッカー協会参与、川崎フロンターレクラブ特命大使、出雲観光大使などを務める。TBS『サンデーモーニング』、テレビ朝日『Get Sports』のコメンテーター。TOKYO FM『TOKYO TEPPAN FRIDAY』ラジオパーソナリティ。サッカー選手のパーソナルコーチとしては、当時インテルに所属していた長友佑都を担当することから始まり、現在は永里優季、久保建英、中井卓大、斉藤光毅などを指導している。

濱口秀司 Hideshi Hamaguchi⁠

京都大学卒業後、松下電工(現パナソニック)入社。⁠

研究開発に従事後、全社戦略投資の意思決定分析担当となる。⁠

93年日本初のイントラネットを高須賀宣(サイボウズ創業者)と考案・構築 。

⁠98年米国のデザインコンサルティング会社zibaに参画。⁠

世界初USBフラッシュメモリーのコンセプトをはじめとする数々のイノベーションや事業戦略立案をリード。⁠

12年ビジネスデザインファーム monogotoを創業。⁠

独RedDot デザイン賞審査員。ポートランド、ロサンゼルス在住。⁠

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