Park College #17

哲GAKU 第10回「中西メソッド×中村憲剛」(後編)

Park Collegeでは、連続講座「中西哲生の哲GAKU」をオンラインで開催しています (毎月14日開催、全12回予定、無料)。

第10回目は、元サッカー日本代表の中村憲剛氏をゲストに迎えて、2021年6月14日(月)に実施されました。

前編に続き後編も、さまざまな分野の知見をスポーツ技術に応用しコーチする中西哲生の視点から、ぜひ自身の学びや気づきに繋げ、楽しんでいただければと思います。

「田中碧選手はチームを循環させる役割を担っていた」(中村)

トーク中の中村憲剛

中西哲生(以下、中西):前を向く次の段階としては、いまは当たり前のように使われますが、「相手を見て、相手によってやるべきことを変えられるか」。いまでこそフォーカスされていることを、中村憲剛さんはずっと言い続けてきましたね。

中村憲剛(以下、中村):僕自身が学生の頃は身体が小さくて、身体能力もなかったので、ディフェンスの人に近いと潰されちゃうんです。なので、ちょっと離れるところからサッカーを始めたんです。そうすれば、自分がコントロールしたあとに相手が寄せてくるので、取られなくなる。相手を見ることは、その頃から身についていました。

中西:中村憲剛少年にとっては、それができないとボールを自由に触れない。

中村:触れないし、前も向けない。相手を見てやらざるを得なかった、という言い方のほうが正しいかもしれません。Jリーグに入ってくる選手たちは、育成年代までは基本的に能力でできちゃう。立ち位置とかをあまり考えなくても、来られても弾き返せたり、スピードで抜けたり。そういう選手たちがプロに入ると、プロのスピードはすごく速いので戸惑う。だから、ちゃんと相手を見た立ち位置を取らないとプレーできない。そういうところから、ちょっとずつ話をしていくんです。それも、すぐには言わないです。

中西:というと?

中村:ある程度困ってから言います。ある程度できない、というところで言うんです。

中西:本人たちが壁にぶち当たってきたな、というところで。

中村:そうです。最初にバッと全部言ってしまうと、彼らは困っていないし、言われても分からないままにやるので、余計に混乱してしまう。できてないな、うまくいってないなって時に言うと、スッとその言葉が入っていくんですよね(笑)。

中西:浸透が早い?

中村:早いです。そういう心理状態のほうが、アドバイスは刺さる。僕が一方的に言ってやらせて覚えるのではなく、ちょっとずつヒントを与えて彼らが自分のものにしていくほうが、長く自分のものになっていく。

中西:いやあ、ホントにそうですよね……教えるんじゃなくて、本人たちが学びたいと思ったときが、浸透もするし。

中村:伸びるときですね。いまの彼らの活躍というのは、彼ら自身が色々な経験をしてきたからで、少しでも成長の助けになったんじゃないかなと思うと、今回の6月シリーズでフロンターレの選手、フロンターレ絡みの選手を観るのがすごく楽しかったです。

中西:6月シリーズの前にひとつ言うと、3月のU-24アルゼンチン戦。U-24日本代表は第1戦で負けてしまって、第2戦に田中碧選手が出てきた。こういう形でと彼が分析したものがチームに浸透して、3対0という結果に結びついたと報道されました。

中村:そのとおりだなと思いました。プレーそのものはフロンターレでやっていることと大きな差はなくて、中間ポジションを取って相手が守備で困るところに、ボールには触れないんだけど相手のFW(フォワード)が彼を気にしなきゃいけないところに、ポジションを取る。そうすることで日本のセンターバック陣に時間ができて、ちょっとでもプレスがきたときに田中碧選手が隠れないでボールを受けるので、そこにボールがスッと入る。相手は寄ってきたらまた戻す。で、センターバックにより時間ができる。間に立ってボールを受けて、さばいて、前を向けるときは向いてロングパスを出したり、クサビのパスを入れたり。それだけで後ろのビルドアップは安定していましたし、前の選手たちはボールが来ないストレスを抱えることなく。ストレスを抱えると、前の選手は下りてきてしまう。そうならずに前にいることで、前の選手たちの良さがより生きましたし。要するにチームを循環させる役割を担っていた。

中西:フロンターレで培ってきた戦術眼、中村憲剛選手とともにプレーすることで培われた戦術眼が、脈々と受け継がれている?

中村:僕だけではないと思うんです。ただ、一番口うるさく言っていたのは僕なので。そこでプレーできたら、彼らが楽になるので。彼らが楽にプレーできれば僕も楽にプレーできる、という考えでした。

中西:トップ下でプレーする際のストレスは、だいぶ減っていたわけですか?

中村:最後のほうはもう、あまり言う必要がなかったですね。みんなスムーズにプレーしていた。ワンタッチでやるところはそうする、ためるところはためる。相手を見ながら立ち位置をみんなで変えながら、どこを攻撃するかを見ながらいく、という合図もみんな持っていました。イメージはかなり共有できていたと思うので。

「前の試合のときに言った『軸足抜きの蹴り足着地』がもうできるのか、と僕は驚きましたけどね」(中西)

トーク中の中西哲生

中西:今回は『N14中西メソッド』のことも話していただけるということで。中村憲剛さんのプレーを見て、ここだけは僕のメソッドが生きるだろうということで、お話をしたことがありました。2014年4月の柏レイソル戦だったと思いますが。

中村:よく覚えていらっしゃいますね(笑)。

中西:左足でシュートを打ったときに、枠をとらえられなかった。ちょっと大きく外れて。右足のパスとシュート、左足のパスは完璧なんですが、左足のシュートだけは改善したほうがいいな、と。つまり軸足が地面に残っている状態で蹴っていたので、「軸足抜きの蹴り足着地」で練習する動画を送って、観ていただいて、取り組んでもらいました。

中村:レイソル戦の次の試合は、4日後のアジアチャンピオンズリーグでした。中国でのアウェイゲームで、左足で決勝ゴールを決めたんです。最初はちょっと良くわからなかったんです。「軸足抜きって何?」っていう感じで。でも、そうすると浮かないんですよね。あとは「感情を消せ」と。

中西:それはもう、小林悠選手にも、打つ瞬間は感情を消せといつもと言っています。

中村:それも何を言っているのか、ちょっと良く分からなかったんです(笑)。決めたいんですから、感情はあるにきまってるじゃないですか。だけどそれが実は身体に緊張感を生み、力を入れることにつながってしまう。「感情を消せ」という言葉と、「軸足を抜くこと」で力を入れさせない。強制的に。それをやったら、左足で点取ったんですよ。2014年4月15日の貴州人和戦でした。

中西:前の試合のときに言ったことがもうできるのか、と僕は驚きましたけどね(笑)。

中村:何がすごいって、自分でもそこまで理解していないし納得もしていないのに、やったら入るというのが。強制的に理解が早まりました。シュートが浮かなかったんですから。ここで話すと出来過ぎな話になっちゃうんですけど、事実なので。

「ディフェンダーとかフォワードは、工夫をしていても最終的に決めるところと守るところで、スペシャリティは必要」(中村)

トーク中の中村憲剛

中西:質問をたくさんいただいていまして、ありがとうございます。まずひとつ目ですが、サッカーのプレーを言語化するうえで、心がけていることは何でしょうか、試合中、テレビ解説、パーソナルコーチなどで使い分けはありますか?

中村:使い分けはしているようでしていません。仕事が始まる前には、自分が面白いと思ったことをとにかく簡潔に伝えたいといつも思うんです。けれど、どうしても長くなってしまう。

中西:長くなるということは、それだけ言語化することがたくさんある、言語化することに気づいている、というわけですよね?

中村:それでも、もうちょっとうまくできるんじゃないかな、といつも思います。自分は言語化を大事にしてきたので。

中西:ずっとその話をしていましたもんね。

中村:「Get Sports」だったりの取材で、これっていう答えを僕がしないと、哲さんは「それはどういう意味?」みたいな感じで聞いてくるんですよね。自分のなかでは会心の答えでも、哲さんには正解ではなく、もっと欲しいから「つまり?」みたいな。その瞬間僕は、「ええっ?」って2分ぐらいフリーズするんですよ(笑)。全部カットされていますから、番組を観ている方には分からないですけれど。

中西:でも、中村憲剛さんが絞り出した言葉には、すごく意味があると僕は思っていて。そこでまた凄い言葉が、最終的に出てくるんですよね。

中村:いやだから、スパルタ教育です(笑)。自分が会心の言葉だと思ったものから、もう一段階(上へ)来いと言われたら、もうひねり出すしかない。相当鍛えられました。

中西:(笑)。それができる方だと思ったし、自分自身が絞り出すことによって、その言葉が自分のものになるじゃないですか。

中村:あとは、難しい言葉を極力使いたくないんです。聞いている人たちがそれは何ですか、となると二度手間なので。

中西:平易な言葉で伝えたい。と。

中村:読みやすい、分かりやすい、聞きやすい言葉で、というのをやると、長くなってしまう。しかも試合の解説の場合は、90分のなかで掘り起こそうと思ったら、無限に掘り起こせる。22人の選手がピッチに立って、ベンチにも選手がいて監督さんもいて、みんなが思考している。それを全部話すとなると、もう無理です(苦笑)。だから、いつも葛藤しているんです。今日も話が長かった、と。

中西:言語化では使い分けはしていないけれど、指導では使い分けていますよね?この子に対してはこうしようと。僕も全員にオーダーメイドなので、使い分けをしています。

中村:そのためには、一人ひとりをすごく見ないといけない。自分のプレーを見てもらっていると思っての声掛けと、そうでないと思っての声掛けは、浸透度が全然違うので。ちゃんと見たうえで、言いますね。

中西:もうひとつ質問を。日本はMF(ミッドフィールダー)が育ちやすい環境だと言われたりしますが、どう思われますか? 

中村:そのヒントみたいなものを、今日は話したかもしれないですね。中盤の選手が一番、立ち位置も含めて色々と理解が深まりやすい、正解が生まれやすいポジションではあるんですね。最終ラインの選手は一番後ろだし、一番前の選手はどうしても人に付かれてしまうので、それでも間に立ってほしいなというのは、僕は思うんですけれど。育ちやすいというのは、あながち間違っていないな、と。

中西:サイズ的に大きくなくてもできるというのは、久保選手が証明してくれています。中村憲剛少年が、小さい身体でも思考してぶつかられないようにプレーしたこともそうですし。引退会見の時の話ですごく印象的だったのが、身体が小さいとかフィジカル的に強くないとか、足が速くないとかいうことをネガティブにとらえないで、そこを逆にポジティブにとらえてやってほしい、と。まさにそこが、工夫のしどころというか。

中村:そういう意味で言うと、ディフェンダーとかフォワードは工夫をしていても最終的に決めるところと守るところで、スペシャリティは必要なんですよね。ホントのフォワード、ホントのディフェンダーを育てるというところは、これからの日本の育成の課題のひとつになってくるかな、と思います。もちろん、ゴールキーパーもそうですけれど。ミッドフィールダーだけが豊富ではないですけど、ただやっぱりミッドフィールダーの選手が一番多く海外へ渡っているところがあるので。

2人のトーク場面

中西:まだまだたくさんの質問をいただいているのですが、すべて答えられず申し訳ありません。

中村:申し訳ありません!

中西:今後もこういった機会を設けていきたいと思いますし、川崎フロンターレのファンの方が多く観ていただいたかもしれませんけれど、中村憲剛さんも僕も日本のサッカーの進化のために少しでも貢献できればと思って活動していますので、ぜひともまた機会があったらこの『哲GAKU』もご覧いただければと思います。今回のゲストは中村憲剛さんでした。どうもありがとうございました。

中村:ありがとうございました。

2人のトーク場面

テキスト:戸塚啓(スポーツライター)

Profile

中西哲生 Tetsuo Nakanishi

スポーツジャーナリスト/パーソナルコーチ。現役時代は名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレイ。現在は日本サッカー協会参与、川崎フロンターレクラブ特命大使、出雲観光大使などを務める。TBS『サンデーモーニング』、テレビ朝日『Get Sports』のコメンテーター。TOKYO FM『TOKYO TEPPAN FRIDAY』ラジオパーソナリティ。サッカー選手のパーソナルコーチとしては、当時インテルに所属していた長友佑都を担当することから始まり、現在は永里優季、久保建英、中井卓大、斉藤光毅などを指導している。

中村憲剛 Kengo Nakamura

元プロサッカー選手。1980年10月31日生まれ。東京都出身。O型。

ミズノブランドアンバサダー、Frontale Relations Organizer(FRO)、JFAロールモデルコーチ、JFA Growth Strategist就任。

川崎フロンターレ 一筋18年。2020シーズン限りで現役を引退し、現在育成年代への指導や解説活動等を通じて、サッカー界の発展に精力を注ぐ。

府ロク少年団(東京都)[小金井市立小金井南小学校(東京都)] ─ 小金井市立小金井第二中学校(東京都) ─ 東京都立久留米高校(東京都) ─ 中央大学(東京都) ─ 川崎フロンターレ

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