Park College #16

哲GAKU 第9回「中西メソッド×出雲」(後編)

Park Collegeでは、連続講座「中西哲生の哲GAKU」をオンラインで開催しています (毎月14日開催、全12回予定、無料)。

第9回目は「中西メソッド×出雲」をテーマに、現地在住の 島根県立大社高校サッカー部前監督 佐々井秀臣氏、⁠島根県立大社高校サッカー部監督 後長直樹氏、⁠有限会社 出雲観光タクシー代表取締役 渡部稔氏 をゲストに迎えて、2021年5月14日(金)に実施されました。

前編に続き後編も、さまざまな分野の知見をスポーツ技術に応用しコーチする中西哲生の視点から、ぜひ自身の学びや気づきに繋げ、楽しんでいただければと思います。

「自分たちの可能性は無限大という前提から指導してくださるので、言われること一つひとつにワクワク感が伴っていく」(後長)

トーク中の中西哲生

中西哲生(以下、中西):後長さんは佐々井さんの後任として、いつから監督をやっているのですか?

後長直樹(以下、後長/島根県立大社高校サッカー部監督):2019年ですね。

中西:僕の第一印象はどうでしたか、本人を目の前にして、言いにくいかもしれないですが(苦笑)。

後長:正直に言って半信半疑というか、言われていることもすごく面白いんですけど、本当にそうなのかという疑問も持ちながらでした(苦笑)。

中西:いえ、それが正しいと思います(笑)。その後はどうでしたか?

後長:パーソナルコーチをやっていることもあって、個人へのアプローチのしかたが大変勉強になりました。様々な例えを用いながら言語化された指導方法に、選手たちが納得感を持って指導を受けることができていたのは、非常に印象的でした。

中西:指導をするにあたっては、選手たちから「うまくなりたい」という気持ちをいかに引き出せるかが大事だと、僕は考えています。そのあたりはいかがですか。

後長:自分たちの可能性は無限大だよという前提から指導してくださっているので、言われること一つひとつにワクワク感が伴っていくと思います。

中西:僕自身は選手たちがいかにクオリティ高くボールを止めて、蹴れて、キックのクオリティを上げられるかについて、自分の仕事としてやらせていただいてきました。

後長:日々の練習のなかで選手たちが自分のプレーをフォーカスして、評価して、「いまのはこうだったな」とお互いに話し合いながら練習を積み重ねています。それは大きいと思います。ただ、(2020年12月31日から1月11日まで開催の)高校選手権で悔しい思いをしました。そこはホントに突き詰めて、指導者側がもっと突き詰めていけば、違った結果があったんじゃないなかと思います。

トーク中の中西哲生

中西:いまお話があったように、2019年4月に監督になられたあとに、2020年度は立正大淞南高校を県予選決勝で破り、高校選手権の出場権をつかみました。

後長:サッカーのやり方というかスタイルはちょっと違うのですが、佐々井先生が積み上げてきたボールを大事にすることはもちろん継承しています。その違うスタイルの戦いのなかで、選手たちが焦らずに自分たちのスタイルを表現して勝てたのは、非常に大きかったかなと思っています。

中西:気後れせずに平常心でプレーできたということですか。

後長:論理的に相手の出かたを利用しながら崩して点を取ることだったり、デザインしたセットプレーだったりというのが得点につながりました。その意味では、自分たちがやってきたことが正しかったんだと、選手たちも思うことができたような気がします。

中西:昨年はコロナ禍でまったく伺うことができず、僕が居ればうまくいくというわけではないのですが、高校選手権のサッカーはすごく良かったと感じました。チームの初戦となる2回戦でペナルティーキック(PK)負けとなりましたが、全国大会についてはいかがでしたか?

後長:結果はもちろん悔しかったのですが、ボールを大事にして自分たちの時間を作りながら攻撃を仕掛けていくというのは、ある程度表現できたのかなと思います。哲生さんと「クオリティが伴っているときにはいい攻撃ができている」と話していましたが、まさしくそうだなと思いました。

「たとえを用いて伝えれば、すごく選手に落ちていく」(佐々井)

説明中の中西哲生

中西:渡部さんは3人のなかで一番長く僕の練習を見ていますけれど、僕のメソッドが普通のものとは違うと感じるのはどういうところでしょう。

渡部稔(以下、渡部/有限会社出雲観光タクシー代表取締役):私が印象的なのはサポートです。失敗しても次は自分がサポートしてやるという信頼感がチーム内にあって、それは練習や試合を通して蓄積されていったものだと感じます。ボールを止める、蹴るというのは、指導者も哲生さんからどういう指導をするべきか学んでいますので、現場でしっかりとやっています。哲生さんもビデオで観られたと思うんですが、高校生が素晴らしいシュートを決めたりするわけです。「これがまさに哲生さんが言っている蹴りかたなんだな」と思えるものでして。本番で具現化して得点につなげているのを日々見ていますので、選手たちの成長の速さは感じます。

中西:佐々井さん、「中西メソッド」について感じていることをお聞かせください。

佐々井秀臣(以下、佐々井/島根県立大社高校サッカー部前監督):まずは言語化されているということですね。すごくスッと入ってくるというか、分かりやすい。たとえば、選手たちに「リラックスして」と言うんですけど、どうすればリラックスした状態になるのかというのが、選手たちは分かっていません。そこでたとえば、「重心が高くて空中にあれば、早いボールであるほどピタッと止まる」と説明されると……。哲生さん、最初に釣り鐘理論で説明をされていましたね。

中西:はい、上から釣るされているように少し重心を上げて、ボールの上半分を身体の真下で触る、ということですね。

佐々井:ああいうふうにたとえを用いて伝えれば、すごく選手に落ちていくし、なぜ重心を上げるのかという説明に対しても、分かりやすく言語化されていました。

後長:トラップのところでいうと、カーテンにボールが当たったら吸収されて下にストンと落ちるという。日常で我々が出会うようなたとえを多用されることで、言葉から映像が映されたような感覚になるというのが、非常にスッと入ってくる部分かなと思います。

中西:小中高校生と触れながら、どうやったら選手たちが一番成長するだろうと考えたときに、彼らの素直な気持ちをプレーに反映させることの重要性を感じました。失敗しないようにと思ってプレーするのではなく、どんなときも成功するイメージでボールを止めにいってほしいし、シュートを打ちにいってほしい。成功をイメージして、それでもしミスが出たら周りがすぐに寄って助ける、しかも味方の選手が失敗して奪われたボールをすぐチームメイトが奪い返したら、これまたビッグチャンスになる。みんなが「ボールを受けたくない」とか「失敗したくない」と思ってやるのではなく、みんながボールを受けたいと思う。でも受けられるのはひとりだから、残りの10人は受けようとした選手がミスをしたら瞬時に取り返す準備をして待ちましょう、ということを佐々井さんが監督当時からずっと言い続けてきました。僕が説明したトラップの方法で失敗したら僕の責任だから、それでいいからボールを受けてくれ、と。

佐々井:2015年度の高校選手権の前に、青森山田へ向けた落とし込みで僕がずっと悩んでいたことを、もうホントに分かりやすく伝えてもらいました。哲生さんのひと言、ひと言が結果につながっていったことが、選手もすっと入っていった大きな要因だと僕は思っています。で、できるようになるから、面白いんでしょうね。

中西:高校選手権の青森山田戦の2点目のゴールは、外側を見ながら斜めに走っている選手を横目で見て、スルーパスを出した。シュートを打つときも、GKに近づいたら肩口を抜くか、股間を抜け、もしくは相手を交わせと言っていたのですが、GKの股間を完璧に抜いた。ああいうふうに相手をちゃんと見られるようになったことも、楽しかったんでしょうかね。

佐々井:そうだと思います、僕も観ていて楽しかったですから(笑)。

「選手たちに言う「いまやるべきことを遂行するフラットな心」という言葉は、出雲で生まれました」(中西)

トーク中の丸田喬仁

中西:僕が出雲へ行って驚いたのは、サッカー場がたくさんあることです。芝生の素晴らしいグラウンドがまとめて何面もあったり。

佐々井:そういうところで毎年大会を開いて、全国から来てもらうと、すごくびっくりされますね。「なんでこんなところに、こんなにグラウンドがあるんですか」と。

後長:小学生も出雲各地区で全国大会に出られるレベルのチームがあり、中学生年代もクラブで強いチームがあります。一貫指導をもっとより良くしていけば、世界に羽ばたけるような選手が育っていくんじゃないかと期待しております。

中西:出雲から世界へ羽ばたく選手がひとり出れば、どんどん可能性は拡がっていくと思いますし、僕もそういう選手を生み出せるヒントになれればと思っていますけれど、僕が自分のメソッドを構築していく上で大きなポイントになったのは……出雲縁結び空港へ着いて、出雲大社へ向かっていくと、自分の気持ちが落ち着いていく感覚があるんです。自分は名古屋出身で縁もゆかりもないけれど、ここに来ると何か懐かしい感じがするなあと思ったんです。で、出雲大社へ行くと、高揚するわけでなく、落ち込むこともない。すごくフラットになります。それが何でメソッドの役に立ったかというと、結局その気持ちでプレーしているときが力みもない、焦りもない、慌ててもいない、「このシュートが決まったら」とかいうことも考えていなくて、「いまやるべきことを遂行するフラットな心」になっている。いま選手たちに言っているその言葉は、実は出雲で生まれました。出雲に馴染み深い皆さんは、フラットという感覚はなかなか感じるのが難しいかもしれませんが。

後長:とくに意識はしないのですが、哲生さんがいらっしゃったときに、「出雲いいんだよね」とポロッと言うのが、フラットなのかなと思いますね。

中西:出雲にいるだけで、自分が穏やかになるんです。

後長:それを見てこちらも嬉しくなると言うか。哲生さんのフラット感というのを、なかなか味わえないので。

佐々井:後長さんと全く一緒で、哲生さんがリラックスしているのはすごく分かります。哲生さんに改めて言われるたびに、「ああ、ここってすごくいい空気なんだな」とか、「リラックスできる場所なんだな」というのは感じさせてもらっていました。

渡部:フラットになるというのは今日初めて聞いたような気がしますが、「あっ、それでか」ということがあります。私はハリウッドスターやインドの地位の高い方をアテンドしたことがあるのですが、その方々が出雲大社へ行くと「この場所は特別です」と言われるのです。それって哲生さんが言う「フラット」につながると思うんですね。人種も文化も物の考えかたも違うけれど、空気感とか精神的な落ち着き感とか、そういうものがやはり……「特別な場所」として感じられるのでしょうね。

中西:僕も久保選手や様々な選手に、「心がフラットじゃないといいプレーはできないよ」という話はずっとしているんですけど、そのフラットってどういうことだろうと自分のなかで何となく考えていたのですが、出雲大社で参拝をしたあとに、すごくフラットな気持ちになります。これを観た人にぜひ行っていただきたい場所があって、本殿の真裏の空気感は普通じゃなくて、僕のなかでは一番フラットで一番いい状態なんです。本殿の真裏は、なんと言えばいいんですかね?

渡部:素鵞社(そがのやしろ)があるところの前あたり、ですね。実はアメリカの方もインドの方も、哲生さんがおっしゃった場所を「一番特別な場所だ」と言いました。

中西:このYouTubeを観た方は、ぜひ行ってほしいですね。

渡部:私も今日フラットという言葉で、過去に出会った方々の思いに気づいたような気がします。ありがとうございます。

中西:今日は皆さんにリモートで参加していただきました。サッカー、出雲、フラットと色々な言葉がありましたが、少しでも魅力が観ている方々に伝わって、出雲の地へ足を運んでくれる方が増えることを祈っていますし、このコロナ禍が終わったら僕自身ももちろん伺いたいと思いますので、今後とも末永くお付き合いをお願いいたします。今日は本当に長い間ありがとうございました。

渡部、佐々井、後長:ありがとうございました。

テキスト:戸塚啓(スポーツライター)

Profile

中西哲生 Tetsuo Nakanishi

スポーツジャーナリスト/パーソナルコーチ。現役時代は名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレイ。現在は日本サッカー協会参与、川崎フロンターレクラブ特命大使、出雲観光大使などを務める。TBS『サンデーモーニング』、テレビ朝日『Get Sports』のコメンテーター。TOKYO FM『TOKYO TEPPAN FRIDAY』ラジオパーソナリティ。サッカー選手のパーソナルコーチとしては、当時インテルに所属していた長友佑都を担当することから始まり、現在は永里優季、久保建英、中井卓大、斉藤光毅などを指導している。

佐々井秀臣 Hideomi Sasai⁠

島根県立大社高校サッカー部前監督。⁠

後長直樹 Naoki Gocho⁠

島根県立大社高校サッカー部監督。

渡部稔 Minoru Watanabe⁠⁠

有限会社 出雲観光タクシー代表取締役

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