Park College #16

哲GAKU 第9回「中西メソッド×出雲」(前編)

Park Collegeでは、連続講座「中西哲生の哲GAKU」をオンラインで開催しています (毎月14日開催、全12回予定、無料)。

第9回目は、現地在住の 島根県立大社高校サッカー部前監督 佐々井秀臣氏、⁠島根県立大社高校サッカー部監督 後長直樹氏、⁠有限会社 出雲観光タクシー代表取締役 渡部稔氏 をゲストに迎えて、オンラインで実施されました。神話のふるさと「出雲」の魅力や、子供たちとサッカー、「中西メソッド」との深い繋がりを知ることができる内容でした。

サッカーやスポーツの技術を向上させたい方も、スポーツにはあまり縁がない方、指導する立場の方も、さまざまな分野の知見をスポーツ技術に応用しコーチする中西哲生の視点から、ぜひ自身の学びや気づきに繋げ、楽しんでいただければと思います。

「初めて出雲大社へ行ったときの衝撃が忘れられません」(中西)

3人のトーク中場面

中西哲生(以下、中西):みなさん、こんばんは。第9回『哲GAKU』へようこそ。今回は「中西メソッド×出雲」ということで、みなさんの頭のなかにクエスチョンマークが浮かんでいると思うのですが、僕のメソッドには欠かせない場所ですし、出雲へ行ったことによって僕自身のサッカー観は大きく変わった部分があります。そういった部分をゲストの方々に紐解いていただきながら、出雲の魅力もお伝えしていきたいと思っています。では早速、ゲストの皆さんをご紹介していきます。まずおひとり目は、島根県立大社高校サッカー部前監督の佐々井秀臣さんです。

佐々井秀臣(以下、佐々井):よろしくお願いいたします。

中西:そちらもコロナの影響は大きいでしょうか。

佐々井:感染者数は少ないですけれど、やはり色々なことが制限されています。

中西:そしてふたり目のゲストは、大社高校サッカー部現監督の後長直樹さんです。

後長直樹(以下、後長):よろしくお願いいたします。

中西:コロナ禍ですが、サッカー部は練習できていますか?

後長:遠方には出かけられないのですが、日々励んでいます。

中西:そして3人目のゲストは、有限会社出雲観光タクシー代表取締役の渡部稔さんです。

渡部稔(以下、渡部):よろしくお願いいたします。

中西:お三方がお揃いになったわけですが、渡部さんも大社高校サッカー部のOBなんですよね。

渡部:はい、ゴールキーパー(GK)をやっていました。我々の高校は歴史が古く、1000人を超える卒業生がおりまして、蹴友会というOB会があります。その事務局長をさせていただきながら、学校の部活の支援などをやっています。

中西:3人のなかで僕が最初に会ったのは渡部さんですね。

渡部:2011年ですから、もう10年になりますね。

中西:愛知県高校選抜の先輩が出雲にいて、その方に呼ばれて出雲へ講演とサッカー教室に行ったのが出会いですよね。出雲と出雲大社へ初めて行くことになりまして、その時の衝撃が忘れられません。ここは何かすごいところだぞ、と。抽象的な表現で申し訳ないのですが。

渡部:出雲という地は歴史が深いところで、さかのぼれば古事記とか神話にも出てきます。さらに日本の暦で言うと11月は一般的に神無月と言われますが、出雲では『神有月』です。唯一呼び方が違います。それはなぜかというと、いまの出雲大社の御祭神である大神様、天照大御神様の子孫に国を譲る話があるのですが、そういう引き換えによって神代の世界を大神様がお祭りされるようになるわけです。それによって全国から神様が、大神様を頼って出雲に集まると。日本のどこを見ても全国の神様が集まるのはこの出雲しかないんですよね。

中西:渡部さんが歴史の触りを紹介してくれましたが、最初の訪問は10月だったんです。翌月が神有月だと聞いて、そこから何度も通うことになるのですが、僕は「ここは空気が違うぞ」と思いました。それには色々な理由が、もしかしたら科学的な理由があるのかもしれない。つまり木がたくさんあるのでイオン量も水分量も多いと感じていて、渡部さんに「ここは普通じゃないですね」と話しましたね。それで、僕の先輩が大社高校サッカー部のGKコーチをされていて、息子さんは大社中学校のサッカー部で、「時間があるなら中学校のサッカー部で教えてよ」と言われて。翌年からは大社高校の臨時コーチをすることになるのですが、佐々井さんはなぜオファーをしてくれたのでしょう?

佐々井:哲生さんに対する第一印象は、「僕たちが普段考えていることと次元が違うな」というものでした。長友佑都選手のパーソナルコーチをやっているとのことで、そもそも日本人がインテルでプレーしていることが衝撃じゃないですか。その選手のパーソナルコーチですから。私も新しいことが好きなので、色々と学びたいなと思って、ぜひ一度お願いしますと。

「出雲大社では知らず知らずのうちにエネルギーとかパワーが付くような気がする」(渡部)

トーク中の佐藤敏基

中西:島根県から全国大会に出ようとすると、大社高校も強豪ではあるけれど、立正大淞南高校がある。そちらは全国大会に出れば、ベスト8以上まで行く力を持っていますよね。そのチームに対してどういうふうに戦っていくのかというところが、僕にオファーをくれた理由のひとつかなと思ったのですが。

佐々井:そこは一番大きいところで、ライバルに対してどうやって戦っていくか、そのヒントが得られればいいな、と思いました。とくに止める、蹴る、の部分は絶対に必要だと思っていましたが、具体的にどういうコーチングをすれば良くなるのかというのが、僕自身もひとつ上へ行けていないというか、悩んでいたところでした。

中西:トラップのときにどういう姿勢でどこに重心を置いて止めるかとか、どういうドリブルをすると身体からボールが離れないかとか、どういうキックをしたら決まりやすいシュートが打てるのかとか、当時すでに長友選手に伝えていました。

佐々井:哲生さんが現場に来てくれて、選手にアドバイスをしてくれることで、聞く耳を持って取り組んでみようという刺激が、選手一人ひとりにすごく入りました。

中西:僕が学んだこともありまして。大社高校の選手たちと触れ合ったときに、僕も大学生とか高校生に接していますけれど、何か違うなという感覚があったんですね。

佐々井:基本的に素直な子どもが多いですね。言ったことは聞いてくれるし、やろうとしてくれる。都会の子を教えたことがないので、違いというのは良く分かりませんが。

中西:後長さんは出雲大社の近くで生まれ育ったのですか?どんなお子さんでしたか?

後長:自分で言うのもなんですが、素直だったと思います。東京などに比べると情報量が少なかった部分はありますが、たとえば中西さんのような特別ゲストが来たら目を輝かせて吸収したい、という欲は持っていました。

中西:僕が選手たちに、「インテルの長友選手のコーチをしています」と言ったら、びっくりしていましたもんね。とくに長友選手のキックのフォームは、僕が伝えている「軸足抜き、蹴り足着地」で、選手たちも「あっ、ホントに長友選手がこの蹴りかただ」と真似をしていました。選手は修得するのがめちゃくちゃ早くて、真似をし始めるとキックのクオリティはすぐに上がりました。

佐々井:そうですね、すぐに効果が出ましたね。

中西:ミドルシュートでゴールが決まることも、たぶん増えたと思いますし。こんなにすぐ変わるんだ、というのが率直な印象でした。

佐々井:たとえば、縦にドリブルで運んでクロスがなかなか上がらない、ボールが流れてしまう選手は、蹴り足で着地して肩を入れることでしっかりと上がるようになったり。子どもたちもやればやるほどできるようになるので、すごく面白がって自主練をしたりしていました。

中西:選手たちはすごく誠実に僕と向き合ってくれて、さっき後長さんがおっしゃったように、「すべて吸収するぞ」というような強い気持ちを感じました。渡部さん、日本のなかでも特別な空気感の出雲大社が近くにあることが、成長過程の子どもたちに影響を及ぼしていると考えられるでしょうか?

渡部:私たちが子どものころは、出雲大社のお祭りのときは学校がお休みでした。それでお祭りに参加するとか、すごく密着する部分がありました。いま現在はお祭りに合わせた学校のお休みはないのですが、小学生から地域の伝統文化に非常に密接に関わっているので、積み重ねた精神的な拠りどころというのでしょうか、生かされているというのは、少なからず感じているとは思います。

中西:まさにいま渡部さんの口から出た「生かされている感覚」というのは、僕はいままで生きてきたなかであまり感じたことがなかったのですが、大社高校の選手たちは本殿の中へ入って掃除をしたりしていますよね。

渡部:小中学生も含めてなんですが、ご奉仕ということで年に一回ご本殿のなかへ、通常は入れないところで、日々の感謝を込めて玉垣の中の草取りを1時間ぐらいかけてやらせていただいています。その瞬間、瞬間というものが、普通ではない空間にいられるというので非常に貴重というか。何回か同行したことがありますが、知らず知らずのうちにエネルギーとかパワーが付くような気がするんです。

中西:後長さんも掃除をしたことがありますか?

後長:昨年はコロナ禍でできなかったのですが、一昨年は小学生チームと中学生チームと一緒にやりました。

トーク中の中西哲生

「指導教本などに書いてあることはこういうことなんだというのを、後輩たちに見せつけられて嬉しかった」(後長)

中西:僕が佐々井さんと出会ってからのハイライトは、2015年度の高校選手権だと思います。青森山田高校との対戦でしたが、あの時のチームは僕が中学3年や高校1年から関わってきた選手たちでした。教えているときに先に先に行けたというか、ベースは中学生までできているから、高校生はもうここからいけるというような感覚がありました。

佐々井:技術のある選手が揃っていた印象もありますし、それこそ素直さのあったチームなのかなと思います。

中西:高校サッカー界のトップ・オブ・トップの存在である青森山田高校に対して、2点を先制しました。最終的には2対3で敗れてしまいましたが、あそこまでできたことについてはいかがですか。

佐々井:1回戦で青森山田とやらせてもらえるということで、哲生さんにも色々な準備を手伝っていただいて、いい入り方ができたというのがひとつ大きかったと思います。私の責任もあって、逆転されてしまいましたが。

中西:いや、そんなことはないですよ。

佐々井:いままでやったことを体現できたのかな、とは思いました。私のなかでも忘れられないゲームです。悔しさもあったのですが、できるな、という感覚を持って帰れたのかなと思います。

中西:佐々井さんと会って大社高校サッカー部に関わることになって、最初に掲げたのは日本のトップを目ざすということでした。立正大淞南高校が全国大会でベスト8やベスト4に入る力を持っていると考えると、島根県予選を勝つことも簡単ではない。ということは、日本のトップを目ざしていかないと立正大淞南高校に勝てないぞ、と。

佐々井:すごく嬉しかったといいますか、「日本代表がワールドカップで優勝するのと、出雲にある大社高校が全国大会で優勝するのは、スケールが合っている、距離感が同じに感じられた」と言っていただいて、その言葉に共感じゃないですけど、ここでできれば日本代表がワールドカップで優勝することも現実になり得るという夢と言いますか、そんなロマンを感じたところもありました。

中西:大社高校には他県から来ている生徒がほとんどいないですし、あの出雲大社の周りで育った子どもたちが戦って、そのメンバーで立正大淞南高校を破って、全国大会で優勝できれば……。僕は日本代表がワールドカップで優勝できるようなものが、ここでベースとして確立できるんじゃないかな、という話をしました。覚えていてくれて嬉しいですね。

佐々井:すごく嬉しかったので、よく覚えています。

中西:選手たちには「ここにいるからできないわけがない。出雲だからできないっていうのは違うよ」という話はしていきました。「出雲にいても世界のトップは目ざせるはずだ。だからちゃんといい準備をして、ちゃんと落ち着いてプレーすれば、どんな強い相手でも勝つ可能性はあるよ」と、呪文のように毎回言っていました。後長さん、青森山田戦はご覧になっていましたか?

後長:私もOBですので、会場へ行っていました。地元の子が堂々とプレーしていること自体が、大社高校はもちろん島根県の子に勇気を持たせてくれたなと思います。止める、蹴る、を自信を持ってできるので、判断をするために顔が上がって色々な情報収集ができて、青森山田さんもプレスが非常に早かったですけれど、その速さを利用して、その反動で逆を突いて攻めていくという、本当に巧みな攻撃をしていたという印象を持っています。

中西:後長さんがおっしゃったように、彼らは止める、蹴るが染みついていて、自分がどっちへいくか、もしくは相手がこう来たらこういこう、ということを楽しめている感じがしました。

後長:やっている本人が楽しそうにプレーしながら勝利を目ざしていることが、観ているものを魅了するというのは、指導教本などに書いてあるのですが、こういうことなんだなというのをまざまざと後輩たちに見せつけられたというか、非常に嬉しかったですね。

(以下、後編へ続く)

テキスト:戸塚啓(スポーツライター)

Profile

中西哲生 Tetsuo Nakanishi

スポーツジャーナリスト/パーソナルコーチ。現役時代は名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレイ。現在は日本サッカー協会参与、川崎フロンターレクラブ特命大使、出雲観光大使などを務める。TBS『サンデーモーニング』、テレビ朝日『Get Sports』のコメンテーター。TOKYO FM『TOKYO TEPPAN FRIDAY』ラジオパーソナリティ。サッカー選手のパーソナルコーチとしては、当時インテルに所属していた長友佑都を担当することから始まり、現在は永里優季、久保建英、中井卓大、斉藤光毅などを指導している。

佐々井秀臣 Hideomi Sasai⁠

島根県立大社高校サッカー部前監督。⁠

後長直樹 Naoki Gocho⁠

島根県立大社高校サッカー部監督。

渡部稔 Minoru Watanabe⁠⁠

有限会社 出雲観光タクシー代表取締役

Related Class