Park College #15

哲GAKU 第8回「中西メソッド×58ydアメフト日本記録」(後編)

Park Collegeでは、連続講座「中西哲生の哲GAKU」をオンラインで開催しています (毎月14日開催、全12回予定、無料)。

第8回目は「中西メソッド×58ydアメフト日本記録」をテーマに、Japan Kicking Academyを設立し「世界最高峰のボールを蹴る技術」を追及する丸田喬仁と、キッカーとして初の日本人NFL(National Football League)選手を目指す佐藤敏基をゲストに迎えて、2021年4月14日(水)に実施されました。

前編に続き後編も、さまざまな分野の知見をスポーツ技術に応用しコーチする中西哲生の視点から、ぜひ自身の学びや気づきに繋げ、楽しんでいただければと思います。

「舌の位置とか足の小指とか、そんな細かいところまで練習するんだと驚きました」(佐藤)

トーク中の中西哲生

丸田喬仁(以下、丸田):さて、「Japan Kicking Academy」×中西メソッドについてですが。

中西哲生(以下、中西):佐藤選手は、僕の練習で何に驚きましたか?

佐藤敏基(以下、佐藤):舌の位置とか足の小指が大事とか、そんな細かいところまでやるんだ、と。

中西:舌は首の位置が大事ということですね。僕の仮説によると、眼球とか舌とか内側の色々な部位が正しい位置に入っていると、身体が整うと思うんです。舌が下がると全部の姿勢が崩れる。舌の正しい位置は決まっているので、上あごにつくようなイメージ、実際につける必要はないんですけど、そういうイメージにしていくと首の位置が良くなったりとか。舌の位置については、楽器をうまく弾くための身体の使いかたが書いてある「アレクサンダー・テクニーク」という本を読んだのがきっかけでした。楽器に音を吹き込むこともボールに力を伝えることも同じだろうと思ってやってみたら、舌の位置だけでめちゃめちゃ変わったんです。僕もびっくりしました。

佐藤:僕もめっちゃ効きました。首の位置が悪いなというときは、舌の位置を動かしてそのままの位置で蹴りにいきます。

中西:舌を真上に上げる運動をやっていると、内臓が引き上げられる感覚になるんですよね。

佐藤:はい、そうです。

丸田:まさに姿勢というところが課題だったので、そこを見抜けるのは何でっていう。中西さん、すごいなと。

中西:サッカーの一流選手はめちゃめちゃ姿勢がいいんです。僕自身が姿勢のことばかり気にしているので、佐藤選手もどこに癖があるのかとか、歩きながら見たりしていたんですが、もうかなり治っています。すごく失礼な言い方をすると、コーチ的にはつまらないんです(笑)。

佐藤:良かった!

中西:それはつまり、滑らかに動けることにつながっているし、重心も下がらなくなってきているし、最初の頃とは首の位置が明らかに変わりました。

丸田:首が前に出ていましたからね。

中西:最初に鎖骨の下を緩めるというのをやったんです。皆さんにもやってほしいんですが、スマホを使うから鎖骨の下の間の空間が、めちゃめちゃ固くなっている。そこを押すんです。めちゃめちゃ痛いと思いますが。丸田さんも最初は激痛でしたよね。

丸田:でした。

中西:ここを緩めると、胸鎖関節が左右にスムーズに動くようになって、首の位置がめっちゃ良くなるんです。あとは舌を動かしやすくなって、それによって表情が良くなる。良くなるというのは、自然と口角が上がる。ホントかよって思われるかもしれないですが、いい選手はいい表情をしているんですよね。

丸田:そうですね。

中西:絶対に口角が上がっています。いい表情というのはまず眼球が少し上を向くようなときに、全身の関節がいいポジションに入るというのが僕の感覚なのですが、それが佐藤選手を最初に見たときに気になったところでした。蹴っているときの表情が、決していいものではなかった。最近はすごくいい表情で、自分に自信が出てきたのも前提としてあると思います。それ以上に関節、舌がいいポジションに入っている、呼吸が良くなっている、力みがない、ってなると、自然と歩くフォームも良くなるし、そこはすごい大きいかなと思いますね。

「アスリートとしてパフォーマンスを求めるということは、人として良く生きること」(丸田)

説明中の中西哲生

丸田:足の小指を手の指で弾く、というのも(笑)。

中西:みなさんに知ってもらいたいんですが、現代人は足の小指をうまく使えていないんです。「そんなの関係ないだろ」と思うかもしれないですが、足の小指は足の外側の骨とか股関節にまで影響を及ぼしている。なので、足の小指を指で引っ掛けて弾く。弾くと神経がつながってくる感覚を得られます。佐藤選手も何をするんだろうって思ったかもしれないですけど、変わりましたもんね。

佐藤:NFL(National Football League)と日本はボールの規格が違うので、NFLのボールが重いのでそれに負けてしまう、という悩みを哲生さんに相談したときに、教えていただきました。実際に小指を弾くのをやり続けて、NFLのボールにメキメキと勝てるようになってきて。いまでは日本のボールよりNFLのボールのほうが蹴りやすい、飛びやすい、ぐらいになっています。このすごい地味~なトレーニングが、大きな結果につながっているんだな、というのがあります(笑)。

中西:表現が合っているかどうか分からないですけど、それまでの佐藤選手は大きい筋肉でバンと蹴っていた感覚なんですけど、コーチをする立場としては、使える筋繊維は全部使いたい。その細かい筋肉、1本1本の筋繊維を……。

丸田:起こしてあげる?

中西:はい、目を覚ましてあげる。この小指を動かすと股関節につながっていくので。これをやっていくと、あら不思議で。

佐藤:ピッと立っている感じになります。地面からの力がすっと、頭の上まで届く感じで。

中西:足の引力を感じるというか。

中西:ヒールを履く機会が多い方は、これをやるとさっき言った立ち方が、上半身がクッといい立ち方になれると思います。

丸田:アスリートとしてパフォーマンスを求めるということは、人として良く生きる、ということにつながりますね。

中西:いい言葉ですね……。

丸田:正しく生きることが、正しく蹴ることにつながると。

中西:最近は子どもたちもゲームをやっていて、ボタンを押すので親指を内側に入れる。そうすると、鎖骨のところが詰まるんです。で、だんだん首が前に出てくるので、子どもにやってほしいですね。

丸田:こんな感じで、練習ではなかなかボールを使わないんですけど(笑)。

佐藤:ボールまで、が長いですよね(笑)。

中西:いつになったボールを蹴らしてくれるの、と選手に言われます(笑)。

丸田:僕が一番感動したのは縦スワイプです。あれはドリルと呼んだほうがよろしいですか?

中西:完全にドリルですね。僕のトレーニングで、根幹をなしているものです。

丸田:ちょっと失礼ですけど、「中西さん、天才ですね!」と言ってしまいました。これは軸足の引き込みをボールに転化させる部分で、めちゃめちゃ使えるなと思いました。蹴り足でボールを押しているのではなく、軸足の引き込みを使ってボールをスワイプしている。

中西:左足で蹴るときに、普通は左足の股関節を動かそうとする。そうじゃなくて、右足で蹴るなら左足でブレーキを掛けるから、スワイプで言うと右足はボールに引っ掛けているだけで、左足の股関節を使ってスワイプの動きをすると、股関節をものすごくゆっくり丁寧に使える。さっきいった小指を弾くあとにやるとなおさらで、細かくゆっくりいける。僕の蹴りかたの軸足を地面から離すというのも、離すことによってボールに体重が乗るという考え方で、ボールを押せるんですけど。実はスワイプは、佐藤選手用のトレーニングなんですよ。

丸田:え、そうなんですか。

「アメフトは科学的にやっているので、佐藤選手と丸田さんがこれはいいと言ってくれたおかげで、物理的に理に適っていると思うことができました」(中西)

トーク中の丸田喬仁

中西:佐藤選手からNFLのボールが重たい、飛ばないと聞いたときに、僕はコアエンジンを大きくしたいと考えました。距離を出すキック、滞空時間の長いキックが必要なので、股関節の内側、しかも蹴り足ではなく逆足の股関節がやっぱりポイントで。股関節を粘りながら使えるようにするには、スワイプは長いほうが絶対にいい。久保建英選手もいまやっていますけど、彼がすごいのはボールを真ん中に置いて、右足、左足と1、2って踏んでテンポ感をつけた。初めての練習で、1分も経たないうちに。

丸田:それでボールが変なところへいかない、というのはすごい。

中西:試合で使う前提で動いているんですね。股関節の筋肉を細かく使いやすくなるので、ステップを踏んだほうが実はやりやすい。リズム感、テンポ感がないと滑らかに動けないので。だから右、左とステップを踏んでからトン、みたいな。久保選手がすごいのは、教わったことを瞬時に自分のモノにして、試合で使えるように……これって相手を引っ掛けるトレーニングでも使えるんです。サッカー選手に言っているんですけど、右足のキックのときはテイクバックは左足の股関節で、蹴るときは左足の股関節で戻す。戻しながら軸足を離して押す、みたいな。そういう蹴り方でいくと、ドーンといくんです。

丸田:完全にアメフトのキックです(笑)。

中西:アメフトは科学的にやっているので、佐藤選手と丸田さんがこれはいいと言ってくれたおかげで、物理的に理に適っていると思うことができました。サッカーではスワイプがフェイントになるんです。相手を背負って左へパス出すふりをして、左足の股関節で右へグッと戻す。

丸田:体重が完全に乗り切ってないんですね。

中西:乗り切っていないから、すぐに戻せるんです。で、逆にいく。レアル・マドリードの中井卓大選手が試合で使っているんですが、相手はめちゃめちゃ引っ掛かっています。

佐藤:僕はアメリカへ行っている時は元NFLの選手に教わっているんですが、そのコーチが「トシ、それは何だ。めっちゃいいじゃん」みたいな感じで言ってくれて。

中西:スワイプを、ですか?

佐藤:はい。「オレもインスタにあげるからやってくれ」と言われて。そのコーチは、他の選手にやらせています。

「CFL(Canadian Football League)が世界で2番目のリーグなので、おのずとNFL選手を一番輩出しているのもCFLです。NFLへ向けて大きなワンステップになります」(佐藤)

トーク中の丸田喬仁と佐藤敏基

中西:それは嬉しいですね。色々とお話をしていただきましたが、質問も届いているので、そちらへいきましょうか。佐藤選手への質問です。「出番まで動けないアメフトのキッカーは、気温が非常に低い時のキックは痛くないですか? そしてキックに技術的、心理的に影響が出たりしませんか。NFLで豪雪のなかのキックシーンを見たことがあります」という質問です。

佐藤:鋭いですね。僕らキッカーが分かってほしい苦労するポイントを、ズバリ聞いてもらいました(笑)。キッカーは1試合に数本しか蹴らないので絶対に楽じゃん、試合後疲れてないだろって言われるんですけど、そうじゃないんです。出番のためにつねにピークパフォーマンスの身体の状態を保たなきゃいけないので。

中西:寒かったら身体が冷えないようにしないといけないですね。

佐藤:試合が長ければ長いほど、気温が低ければ低いほど、ずっとピークパフォーマンスを維持するのはすごく大変です。ただ、バテてはいけないので、身体が温まっているけれど、疲れていない状態を試合が終わるまで作っています。それができているので、気温が低い時でも足は痛くありません、ただ、その日の1本目のキックは激痛です。ボールの表面の皮が、固くなってしまっているので。

中西:僕からひとつアドバイスをさせていただくと、蹴るときは身体の前の筋肉を使いたくなりがちですが、前の筋肉と背中側の筋肉のバランスがいいときに、いいボールを蹴ることができる感覚があります。僕が選手に何をさせているかと言うと、サイドステップとバックステップです。サイドステップは背中の筋肉を使わないと無理で、関節が曲がらないとできない。バックステップも関節を曲げながら動く、そうすると背中側の筋肉を使う。背中側の筋肉を常に動かしていると、蹴るときにいい状態の身体になっている。サイドステップとバックステップをやるときは、重心があまり下がらないので、それもいい影響です。ウォーミングアップで、ネットに向かって蹴っているじゃないですか?ああいうのではなくて、背中側の筋肉を呼び起こすために、特にバックステップを入れるといいと思います。

佐藤:やってみます。それなら疲れないですしね。

中西:久保選手がいいトラップとかいいパスを出しているときは、必ずバックステップを踏みながら、サイドステップを踏みながらなんです。トラップしているときはピタッと止まるし。そのあとのキックもいいボールがいく。関節がいい位置に入っているので。そこは必然です。さあ、ここでひとつお知らせがあるのですが、NFLに挑戦している佐藤選手は、実はドラフトがあるんですね、カナダのCFLの。

佐藤:日本時間の4月15日深夜のです。CFLが今シーズンからグローバル選手を増やそうということで、北米以外の選手を探していて、ドラフトが開かれます。その候補選手に選んでいただいています。指名されれば、カナダのプロリーグでプレーできます。

中西:指名される可能性はある?

佐藤:そうですね、あると思ってます(※注:佐藤選手を含め、日本人6選手が指名された)。

中西:そのCFLでも、日本人はプレーしたことがない?

佐藤:目ざした人はいますが、日本人未踏の地です。

中西:アメフトは壁が高いですね……。

丸田:向こうでは人気があるぶん、高いですね。

中西:CFLに行けば、そこからNFLへ行けるチャンスもあるわけですね。

佐藤:めちゃめちゃ増えると思います。CFLが世界で2番目のリーグなので、おのずとNFL選手を一番輩出しているのもCFLです。NFLへ向けて大きなワンステップになります。

中西:最後に今日の感想をいただけますか。

丸田:競技が別でも最強を目ざすと、同じところにいくんだなと。あとはアスリートだろうが、一般の人だろうが、いいものを求めるとここ(鎖骨)が大事とか、同じところに集約していくのだなあ、とも感じました。

中西:佐藤選手はいかがでしたか。

佐藤:アメリカへ行ってNFLでやっていたコーチから、一流のメソッドを教わるんですけど、どうしても結果を提示してくるんです。「右のお尻を前に出しながら蹴りなさい」とか言われるんですけど、どうやったらそうやって蹴れるんだろうと悩む時期が長くて。逆算すると最初にあるのが姿勢とか、足の小指を使うとか、舌の位置とか、そういうところだと思うので、そこを知って初めてゴールにたどり着ける、というのをひしひしと感じています。僕はまだ若輩者ですけど、人生の色々なところにつながるんじゃないかと思っていて、人に何かを教えるときも「こうしなさい」と言うのは簡単ですけれど、こうするためにどうしなさいというのを教えられるかどうかが、コーチとか指導者とか先輩とかいう立場では大事だな、と思って。

中西:丸田さんとふたりで、NFLの応援にいきたいですよね。

丸田:待ち遠しいです。

中西:ということで、アメフトの日本記録を持っている佐藤選手と、そのコーチの丸田さんにお越しいただきました。今日はありがとうございました。

丸田・佐藤:ありがとうございました。

テキスト:戸塚啓(スポーツライター)

Profile

中西哲生 Tetsuo Nakanishi

スポーツジャーナリスト/パーソナルコーチ。現役時代は名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレイ。現在は日本サッカー協会参与、川崎フロンターレクラブ特命大使、出雲観光大使などを務める。TBS『サンデーモーニング』、テレビ朝日『Get Sports』のコメンテーター。TOKYO FM『TOKYO TEPPAN FRIDAY』ラジオパーソナリティ。サッカー選手のパーソナルコーチとしては、当時インテルに所属していた長友佑都を担当することから始まり、現在は永里優季、久保建英、中井卓大、斉藤光毅などを指導している。

丸田喬仁 Takahito Maruta

Japan Kicking Academy代表/コーチ。法政大学在学時に1シーズンでのキック総得点数の関東歴代記録をマーク(63点)。日本初のNFLプレイヤーを輩出するため、日本中にキックのノウハウを広めるために活動している。

佐藤敏基 Toshiki Sato

アメリカンフットボール選手/IBM BIGBLUE/株式会社アスポ。NFLに挑戦中。日本最長フィールドゴール(FG)成功記録保持者。全国決勝戦(Japan X Bowl)最長FG記録保持者。早稲田大学卒。全国準優勝、4年間最多FG成功数記録、年間最高数記録達成。昨年はアメリカのプロ育成リーグ(The Spring League)にてプレイ。アメリカでのトライアウトの好成績を受けてNFL公認エージェントと契約締結、NFL特定チームスカウトからの連絡を受け、直接連絡を取り合う。国内滞在中は丸田さんと、米国滞在中はNFLキャリア10年超えのNick Novakと共にトレーニングを行う。

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