Park College #15

哲GAKU 第8回「中西メソッド×58ydアメフト日本記録」(前編)

Park Collegeでは、連続講座「中西哲生の哲GAKU」をオンラインで開催しています (毎月14日開催、全12回予定、無料)。

第8回目は、Japan Kicking Academyを設立し「世界最高峰のボールを蹴る技術」を追及する丸田喬仁と、キッカーとして初の日本人NFL(National Football League)選手を目指す佐藤敏基をゲストに迎えて、実施されました。物理で正す姿勢やフォーム、目・舌の正しい位置と身体の関係性など、キック上達の技が学べる内容でした。

サッカーやスポーツの技術を向上させたい方も、スポーツにはあまり縁がない方、指導する立場の方も、さまざまな分野の知見をスポーツ技術に応用しコーチする中西哲生の視点から、ぜひ自身の学びや気づきに繋げ、楽しんでいただければと思います。

「佐藤選手は丸田コーチが育てているので、僕は少しでも足し算になるように、ということで一緒にコーチをはじめて」(中西)

3人のトーク中場面

中西哲生(以下、中西):みなさん、こんばんは。第8回『哲GAKU』へようこそ。『哲GAKU』は銀座ソニーパークのオンライン連続講座となっております。今回は「中西メソッド×58yd(ヤード)アメフト日本記録」というサブタイトルになっていますが、アメリカンフットボールにまつわるゲストをお招きしています。おひとり目は「Japan Kicking Academy」代表でコーチの丸田喬仁さんです。そしてもうひとりは、キッカーとして日本人初のNFL(National Football League)プレーヤーを目ざしている、「IBM BIGBLUE」の佐藤敏基選手です。

丸田喬仁(以下、丸田):よろしくお願いします。

佐藤敏基(以下、佐藤):よろしくお願いします。

中西:まずはおふたりの関係ですが、丸田さんは僕と似たような立場のコーチという理解でいいでしょうか?チームのコーチではないですよね?

丸田:はい、フリーのコーチです。日本全国で色々なカテゴリーの色々なチームで教えています。佐藤選手とは、コーチと選手の関係です。

中西:佐藤さんは、いつ頃から指導を受けているのですか?

佐藤:2013年からです。コーチというか、僕のキッキングの師匠です。

中西:師匠と弟子ですか(笑)。

佐藤:それでお願いします(笑)。

丸田:アメリカンな感じの関係ではないね(笑)。

中西:丸田さんが行なっている「Japan Kicking Academy」について、教えていただけますか。

丸田:アメリカンフットボールのなかにはキックだけ、ボールを蹴るだけのポジションがあります。そのキッカーを育成する団体です。

中西:丸田さんが立ち上げた?

丸田:はい。

中西:佐藤選手はなぜ丸田さんに教えを乞うたのですか?

佐藤:僕は早稲田大学出身なのですが、キッカーだけで4年間プレーした選手が当時まだいなくて、コーチもいなかったので、どうやってうまくなればいいんだろうとなったときに、たまたま丸田さんが大学の近くにお住まいで、他のキッカーの方を通じて知り合いました。丸田さんは法政大学のOBなのですが、大学の垣根を越えてずっと指導していただいていました。

中西:僕と丸田さんのつながりは青天の霹靂というか、ある日突然Facebookでオファーを頂きまして。えっ、オレって? その頃はまだ、サッカー選手以外は教えていなかったので。最初は何を教えればいいのか、分からなかったです。

丸田:そんな感じはしなかったですけどね(笑)。

中西:とりあえず僕がサッカーで教えている蹴りかた、僕が推奨している蹴りかたを教えて。それが良かったんですよね?

丸田:これはいいぞと。それで、継続して連絡していくことに。

佐藤:中西さんも、大学のグラウンドに来ていただきました。

中西:佐藤さんはいま、早稲田のアメフト部のコーチもしているんですよね。

佐藤:はい。現役選手を指導しながら、自分も練習をしています。

中西:佐藤選手については、丸田コーチが育てている選手ですから、僕は少しでも足し算になるように、お力添えをできるようにということで一緒にコーチをはじめて。2019年の2月に初めてお会いしているので、もう2年以上ですか。

丸田:あっという間ですね。いつも内容が濃いです。

「キックオフというなるべく遠くへ飛ばすキックで、去年のNFLでプレーしていたキッカーがいるなかでトップ3に入りました」(佐藤)

トーク中の佐藤敏基

中西:今日は視聴している皆さんに、アメフト(アメリカンフットボール)についてぜひ知っていただきたいのですが、アメフトはものすごく科学的です。最初に練習へ行ったときに、iPadに三脚を着けて全キックを撮影していることにびっくりしました。それを観ながら、「ここはこうで、ここはこうだ」とディスカッションをしていて。サッカーでは試合を撮影しますが、練習で個人のプレーを撮影するのは一般的ではないので。それから僕は、全部の練習を撮るようにました。で、撮ったら変わるんですね。

丸田:言語化して伝えたものが、選手の感覚にどう影響を及ぼしているか。言葉でインプットしたらキックがどうなるか、というのが映像で観るとすぐに分かります。

中西:佐藤選手、選手の立場ではどうですか?

佐藤:自分のキックを客観的に見る機会はなかなかないので、指導を受けながら「ここを変えてみて」と言われて蹴ったときに、自分のなかで起きた感覚が客観的にそうなっているのかとか、自分としては(身体の)ここにしか感覚がなかったけれど、もうちょっとこっちの動きも良くなったからこのキックが良くなったとか、映像を通すと分かることがさらに増えて。利点だらけです。

中西:丸田さんが「Japan Kicking Academy」を作ったのは、キッカーには特別な練習が必要だろう、と考えたからですか?

丸田:キッカーについては口伝みたいな感じで、各大学ですごい人が下に伝えていくという感じで、体系化されていなかったんです。僕も佐藤選手と同じように、現役時代はアメリカのNFLでプロになるチャレンジをしまして。

中西:NFLという世界最高峰のリーグには、いまだかつて日本人は到達していないんですよね?

丸田:アメリカの4大スポーツ、野球、バスケ、アイスホッケー、アメフトで、アメフトだけが日本人プレーヤーが誕生していません。で、いまNFLプレーヤーを目指して挑戦中なのが、この佐藤選手です。

中西:このところNFLのトライアウトに行かれていますが、どうですか、手応えは感じていますか?

佐藤:かなり感じています。一番最近のトライアウトでは、キックオフというなるべく遠くへ飛ばすキックで、去年のNFLでプレーしていたキッカーがいるなかでトップ3に入りました。

丸田:では、アメリカンフットボールの得点方法を紹介していきます。まずはタッチダウンで、これで6点入ります。ボールを持っている選手が走ってエンドゾーンへ入るか、エンドゾーン内でパスをキャッチしたらタッチダウンです。続いてトライフォーポイント。こちらが1点です。

中西:トライフォーポイントは、タッチダウンしたあとの……。

丸田:ボーナスポイントですね。ここでキッカーが出てきます。これは近い距離からのキックなので、ほとんどは決めて当然です。

中西:タッチダウンとトライフォーポイントで7点セット、と考えればいいですかね?

丸田:タッチダウンをしたら7点入るだろう、と誰もが思います。

中西:ラグビーのトライ後のキックは、トライをした地点の延長線上から蹴りますが、アメフトのトライフォーポイントは、どこにタッチダウンをしても真ん中から蹴っていいんですよね。

丸田:だから簡単と言われたりもしますが、決めて当然と思われるキックが難しかったりするんです。

佐藤:メンタリティとしては、日本記録とかのキックよりも重圧がかかると思います。誰もが決めて当然と思っているから外しちゃダメだ、というメンタルに陥っちゃうと、外すこともあるので。

中西:実際に、トライフォーポイントが苦手なキッカーもいるのでしょうか。

佐藤:いますね。NFLのトップ5に確実に入るようなすごいキッカーがいるんですが、そのキッカーが去年のシーズンはトライフォーポイントの成功率がワーストでした。

「今日の身体の調子は変わらない。いまから自分がフォーカスできるのはリズムと呼吸だと思って、リズム、呼吸、力まない、と決めて蹴ったら、日本記録が決まりました」(佐藤)

丸田:三つ目の得点方法はフィールドゴールで、これが3点です。今日のサブタイトルになっている58yd(ヤード)のキックも、佐藤選手のフィールドゴールによるものです。

中西:その時はメンタル的にどうでしたか?

佐藤:試合前の練習ではいつも、55ヤードぐらいまでは普通に決めているんですけど、その日は55ヤードが1本も入らなかったんです。そのなかで、このロングキックが回ってきました。キックを決めるために大事なのはリズムと呼吸、と(中西)哲生さんに教えてもらっていたので、「今日の身体の調子は変わらない。いまから自分がフォーカスできるのはリズムと呼吸だ」と思って、リズム、呼吸、力まない、と決めて、蹴ったらちゃんと決まったという。

中西:めちゃめちゃ嬉しいじゃないですか!

丸田:哲生さんのおかげです(と言って、頭を下げる)。

中西:その瞬間に、リズムと呼吸を思い出して蹴ったのがすごいですよ。

佐藤:調子が悪かったおかげもありますね。

中西:あ、逆に、ですね。

佐藤:調子が悪いからこそ、思い出せて良かったなと。

丸田:で、キッカーの仕事がもうひとつあります。前後半の開始や得点が入った後に行なわれるキックで、自陣35ヤードから敵陣に向かってキックします。

中西:それがキックオフですか。佐藤選手がトライアウトでトップ3に入ったものですね。

佐藤:これは飛距離がもちろん一番で、ただ、エンドゾーンに入ってボールがデッドすると、相手は決まったところからの攻撃で、相手は持って走って来られないので、なるべくエンドゾーンに入れます。もしくはエンドゾーンを超えてしまうと選手はボールを取れないので、エンドゾーンを超える。それプラスアルファで、ハングタイムという浮いている時間も求められます。

中西:滞空時間が長いと、どういう利点があるのですか?

丸田:キッカーがキックした瞬間に、自チームの他の選手はそれを追いかけます。相手チームはそのボールをキャッチして、攻め返してくる。リターンと言いますが。

中西:あ、走ってきますね。

丸田:キックオフしたチームは、それを止めようとする。キックの滞空時間が長いほど、追いかける選手は先へ進めます。相手の選手がキャッチした瞬間に、近くにいることができます。滞空時間はかなり大事です。ということで、ここからキックのレクチャーに入っていきます。

「ボールを蹴る前は足がムチのように柔らかい状態で、当たる瞬間にハンマーにする」(丸田)

ラグビーボールを足に当てる場面

丸田:楕円球のキックのポイントは、ボールの重心に衝撃を伝えると、ボールは良く飛んでいきます。これはサッカーも一緒ですか?

中西:もちろん、重心に衝撃を与えますが、衝撃を与える時に力んでいると、与えたあとのフォロースルーというか、当たったあとが前に出ていかないとボールを押せない。だから、なるべく力まずに、ボールの重心に衝撃を与えられるといいですね。

丸田:僕らはボールの重心を芯と言いますが、芯に衝撃を与えて、ボールを浮かさなければいけない。なので、縦の長さの半分の半分のところに足を入れて、ここからボールの芯に対して衝撃を貫通させるように。そこで必要なスキルが「LOCK」です。簡単に言うと、膝と足首の関節を固めましょうと。貫通させるときに、「LOCK」が必要になってきます。キックの瞬間は、軸足を深めに置きます。

楕円球キックポイントの説明図

©JKA

丸田:楕円球のキックのポイントは、ボールの重心に衝撃を伝えると、ボールは良く飛んでいきます。これはサッカーも一緒ですか?

中西:もちろん、重心に衝撃を与えますが、衝撃を与える時に力んでいると、与えたあとのフォロースルーというか、当たったあとが前に出ていかないとボールを押せない。だから、なるべく力まずに、ボールの重心に衝撃を与えられるといいですね。

丸田:僕らはボールの重心を芯と言いますが、芯に衝撃を与えて、ボールを浮かさなければいけない。なので、縦の長さの半分の半分のところに足を入れて、ここからボールの芯に対して衝撃を貫通させるように。そこで必要なスキルが「LOCK」です。簡単に言うと、膝と足首の関節を固めましょうと。貫通させるときに、「LOCK」が必要になってきます。キックの瞬間は、軸足を深めに置きます。

中西:深めというのはどういうことですか?

楕円球キックポイントの説明図

©JKA

中西:深めというのはどういうことですか?

丸田:ボールの横のラインに踵が来るぐらいで。

中西:結構前のほうになるんですね。

丸田:サッカーでボールを上に上げようとすると、軸足を浅めにして打ち上げるようなキックになると思うんですが、アメフトでは深めに置いて蹴っていきます。このときに、膝と足首が固まっている状態を作る。イメージで言うと、ボールを蹴る前は足がムチのように柔らかい状態で、当たる瞬間にハンマーにする。固める。

中西:ムチからハンマーに変える、と。

丸田:実はこれがキックには一番必要なスキルです。

中西:蹴る前、テイクバックで固めるのはダメなんですね。

丸田:早めに固めても、遅めに固めてもダメです。早めに固めてしまうと、身体が回ってしまう、遠心力がついて回ってしまう原因になります。一方、遅めに固めると、腰が前に出て膝が曲がった状態でボールに当たり、膝が向いている方向にボールが押し出されていくので、狙ったところには蹴れません。

中西:なるほど。

「本物の技術には、自然に美しさが、格好良さが宿るものだと思っています」(丸田)

3人のトーク中場面

丸田:実は、論文を読んだらサッカーでも固めることは重要らしくて。熟練者と初心者で計測を行なったときに、足のスイングスピードにそこまで大きな違いが出なかった。何に違いが出たかと言うと、膝と足首。両方固められた人が熟練者でした。

中西:そうなんですか……僕はでも、膝と足首と固める感覚はないですね。

丸田:サッカーでは色々な蹴り方がありますが、こと強く蹴るということでは固める、ということでしょう。

中西:飛ばす、上げる、という意味で。

丸田:飛ばすというよりも衝撃を強く伝える、という意味では必要なことです。

中西:押す感覚っていうんでしょうか、それが大事なんですか?

丸田:かなり大事です。ここまでは強く蹴るということでしたが、ボールを上げなければいけないので、重心に対して足を振り上げなければいけないので、脚のスイングの軌道についてもお話します。アメリカへ行って動画を撮影して検証したところ、NFLプレーヤーのキックは先ほどお話したように軸足が深いです。

中西:ホントだ、深い。

丸田:これも色々と理由があるのですが、軸足の力をしっかりボールに伝えてあげるためです。軸足が浅い、ボールより手前で蹴り足がボールを捕らえると、足のスイングの力が失ったところでボールに当たるので、弱くなってしまう。あとは、深いところで当たると、軸足の引き込む力を使って、ボールを押し込めるので、軸足が深い方がいいとされています。

中西:サッカーも真横じゃなくて、少し前に置いたほうがいいんですか?

丸田:蹴りたい軌道に因るとは思うんですが、軸足を深くすると、蹴り足の軌道が勝手に半円を描くようになります。このときに、身体を引き上げておくのが重要です。

中西:引き上げるのはなぜ?

丸田:身体を縮めてしまうと、蹴り足が上がってきません。なので、『ステイトール』がキックの合言葉になってきます。

中西:ああ、確かに……サッカー選手はボールを浮かさないために上体を下げろと教わってきたんですけど、『ステイトール』のような重心を高くというほうが、いまは大事じゃないかなと、僕自身は思ったりしているんです。

丸田:クリスティアーノ・ロナウド選手がミドルシュートを打つ時は、重心が高いですね。

中西:そうなんです。彼は重心がクッと上がっている。僕は選手に鳩尾(みぞおち)とへその距離を縮ませないように、と言っています。誰でもそうなんですが、姿勢を良くしようと思ったらまず、へそから鳩尾の距離を遠くする。そうすると『ステイトール』ではないですけれど、重心の位置がクッと上がるいい状態になるので、それは選手に意識してもらっています。

丸田:完全に同じですね。重心が下がると、身体が回ってしまったりするので。僕は本物の技術には、自然に美しさが、格好良さが宿るものだと思っています。なので、変なキックをしていると、不細工になります。

中西:(笑)。美しい姿勢のほうが、ボールにうまく力が伝わるでしょうね。僕も正しいフォームは美しい、と思っています。

丸田:物理に反していない、というか。

中西:まさにいま話していたボールにコンタクトするのは、物理じゃないですか。物理で基本的に考えている、ということですよね。

(以下、後編へ続く)

テキスト:戸塚啓(スポーツライター)

Profile

中西哲生 Tetsuo Nakanishi

スポーツジャーナリスト/パーソナルコーチ。現役時代は名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレイ。現在は日本サッカー協会参与、川崎フロンターレクラブ特命大使、出雲観光大使などを務める。TBS『サンデーモーニング』、テレビ朝日『Get Sports』のコメンテーター。TOKYO FM『TOKYO TEPPAN FRIDAY』ラジオパーソナリティ。サッカー選手のパーソナルコーチとしては、当時インテルに所属していた長友佑都を担当することから始まり、現在は永里優季、久保建英、中井卓大、斉藤光毅などを指導している。

丸田喬仁 Takahito Maruta

Japan Kicking Academy代表/コーチ。法政大学在学時に1シーズンでのキック総得点数の関東歴代記録をマーク(63点)。日本初のNFLプレイヤーを輩出するため、日本中にキックのノウハウを広めるために活動している。

佐藤敏基 Toshiki Sato

アメリカンフットボール選手/IBM BIGBLUE/株式会社アスポ。NFLに挑戦中。日本最長フィールドゴール(FG)成功記録保持者。全国決勝戦(Japan X Bowl)最長FG記録保持者。早稲田大学卒。全国準優勝、4年間最多FG成功数記録、年間最高数記録達成。昨年はアメリカのプロ育成リーグ(The Spring League)にてプレイ。アメリカでのトライアウトの好成績を受けてNFL公認エージェントと契約締結、NFL特定チームスカウトからの連絡を受け、直接連絡を取り合う。国内滞在中は丸田さんと、米国滞在中はNFLキャリア10年超えのNick Novakと共にトレーニングを行う。

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