Park College #12

哲GAKU 第5回「中西メソッド×√2」(後編)

Park Collegeでは、連続講座「中西哲生の哲GAKU」をオンラインで開催しています (毎月14日開催、全12回予定、無料)。

第5回目は「中西メソッド×√2」をテーマに、「雪月花の数学 日本の美と心をつなぐ白銀比の謎」などの著書を持ち、数学の驚きと感動を伝える数学エンターテイメントを実践しているサイエンスナビゲーター®の桜井進をゲストに迎えて、2021年1月14日(木)に実施されました。

前編に続き後編も、さまざまな分野の知見をスポーツ技術に応用しコーチする中西哲生の視点から、ぜひ自身の学びや気づきに繋げ、楽しんでいただければと思います。

「俳句は正方形だらけでできている。俳句は正方形の二重構造」(桜井)

トーク中の桜井進

桜井進(以下、桜井):中西さんが「14」という数字を大切にしているように、僕も数字との出会いがありました。10歳のときの「√2」です。当時の僕はラジオ少年で、聞くだけでなく作るようになったんです。そこで、「√2」に出会いました。

中西哲生(以下、中西):それはどういうことですか?

桜井:ラジオをデザインするときの共振周波数を求める数式は、「F=1/(2π√(L*C))なんです。

中西:その数式だけで、僕の頭はもうショートしています(苦笑)。

桜井:その数式を使うと、ラジオのチューニング回路が設計できます。「√」の意味が分からなかったので、電卓の1を押して「√」、2を押して「√」、3を押して「√」と調べていって。たまに整数になることを知り、10分で「√」のおよその正体に辿り着いた。で、数学とエレクトロニクスの関係を知ったところで、ジャポニカ学習帳でまた「√2」に出会うんです。

中西:ジャポニカ学習帳! 僕ら世代には懐かしい!

桜井:ジャポニカ学習帳の1cm×1cmのマスに引いている対角線が何cmなのか、ずっと興味があったんです。定規を当てて測ると、予想と違う変な値が出てきた。ぴったり1.5ではなく、1.4より少しだけ大きい。それを見たときに、あの電卓の「√2」の1.414がパッと思い浮かんで。

中西:それはびっくりしますよね。その後、中学2年生で松尾芭蕉の影響を受けたと聞きました。

桜井:僕は山形出身で、松尾芭蕉は『奥の細道』で山形に来ている。自分が普段見ている月山の風景が、五七五のわずか17文字で詠まれていることに衝撃を受けた。マジか、分かる、あまりにも分かる、という。

中西:季節感と情景が思い浮かんだのですね。

桜井:ほぼ同時期に心を打たれたのが、アルバート・アインシュタインです。宇宙の法則を数式で表わすところに心を奪われた。それがまた短い。こんな短い数式が宇宙の法則だと言われて、マジか! と。

中西:また「マジか!」が出ました(笑)。

桜井:松尾芭蕉とアインシュタインに共通点が見えたんです。どちらもフィールドが自然。彼らは大自然を詠んでいる。

中西:情景と、宇宙と。

桜井:もうひとつの共通点は言葉です。芭蕉は日本語、アインシュタインは数式。自然を言葉で表現しているところは同じだ、と思った。これは天才だな、偉業を成し遂げた人の仕事ぶりだな、と。そんなことを考えながら、中学2年生の時に触れた俳句がなぜあんなにも心を打ったのかをずっと考えていて、『雪月花の数学』を書こうと思いました。答えが見つからないままに書きはじめて、華道の未生流のマークを見てふいに気づいたんです。白銀比は1対1対√2ですが、それを整数比に直すと五七五なんですよ。これを見たときに、何でそれまで気づかなかったんだ、と思いました。

中西:1.4を整数にするには5をかければいいと、僕も気づきました。で、五七五は白銀比だったんだ、と。

桜井:つまり、未生流の開祖の未生齋一甫は五七五に花を生けた。芭蕉は五七五に言葉を生けた。僕のなかで華道と俳句が、五七五でつながりました。

中西:五七五が白銀比だったということが、僕には衝撃で。

桜井:さらに考えていくと、日本語はジャポニカ学習帳のマス目のように、1文字1文字が正方形でできている。正方形のなかに閉じ込められている、言葉の圧縮技術なんですよ。俳句は正方形だらけでできている。これを僕はジオメトリー・オブ・俳句、俳句の幾何学と呼んでいます。俳句は正方形の二重構造。

中西:だから、我々としてはしっくりくると。

桜井:そう! 芭蕉はそんな理屈なんか考えていなくて、センスがそれをよしとした。

中西:気持ち良かったんでしょうね。

桜井:そうそう。五七五七七の短歌があって、後ろの七七をとっても、さらに連歌にしなくても、成立させるという。芭蕉はそれを全部良しとした。これは圧縮技術なんです。

「サッカーでは斜めのパスが2本連続でつながった瞬間に、守備は崩れることが多い。だから白銀比を斜めという概念で使うべき」(中西)

トーク中の中西哲生

中西:素朴な疑問ですが、白銀比をサッカーに取り組むことはできると考えられますか?

桜井:それは、なかなか思いつかないですね。正方形があまりないので。舞台で言うと、能は正方形です。

中西:ということは、能のなかにも白銀比はあるわけですね。

桜井:もちろんです。仕手の人は対角線の動きを、つねにイメージしていると。サッカーの舞台が正方形ならそのまま応用できますが、コートのサイズは1対1.5ぐらいですよね?

中西:横が68mで縦が105mです。

桜井:それを割り算すると、白銀比と黄金比の間ぐらいですよ。ヨーロッパ人がデザインしているので、黄金比に近いのでしょう。

中西:それでいうと、僕らは正方形を作ろうとしているんです。

桜井:きた! そうなのですか?

中西:サッカー選手が正方形の四辺に立つとします。で、真上から見て右上の選手がボールを持っている。すると、基本的に両サイドにサポートがつきなさいと教えられます。で、対角線上にいる選手にパスを通すことも大事にしているんです。

桜井:なるほど。

中西:サッカーはゴールへ向かって真っ直ぐ攻めていくと、その正面には必ず相手が立つ。となったときに、前へ行く方法は斜めしかない。だから、いかに斜めを使うかがすごく大事で、斜めのパスには横パスと縦パスの2本分の価値がある。斜めを意識するというのは、サッカー選手が言われることで、斜めのパスが2本連続でつながった瞬間に守備は崩れることが多いんです。だから僕は白銀比を斜めという概念で使うべきだ、と考えるのです。

桜井:白銀比というよりも、より大きくとらえて「比」でしょうか。人間は頭のなかで「比」を考えることで、大宇宙とかミクロの世界をハンドリングできるんです。だから、サッカーもつねに走りながら全体を俯瞰するというか。

中西:俯瞰はします。

桜井:そうでしょうね。それはつまり、「比」を意識してプレーしていると思うんです。

中西:優れた選手は、自分のちょっと後ろにドローンを用意して、自分込みの映像が見えている、と言われています。ドローンはあくまでも例えですが。

桜井:それは、能にそっくりですね。

中西:敵が目の前に立っているその向こう側は、上からのほうが見やすいですからね。正方形の対角線、1.4というところをつねに意識して、シュートもゴールキーパーと正対するとなかなか難しいけれど、角度をつけて斜めに動いたあとにシュートすると、ゴールキーパーは取りにくいところがあります。

「一切の無駄を省いたあの正方形を良しとする感性や感覚が、僕たち日本人にはDNAで受け継がれているんじゃないか」(桜井)

トーク中の桜井進

中西:ところで、日本人が好きな正方形が、僕らの身の廻りから減っていると感じます。

桜井:和室は正方形の部屋になりますよね。昔の家ならそれなりに正方形があったのでしょうけど、洋室化していくと無くなっていきます。僕も減ってきていると感じます。逆に正方形を取り入れることで、「こころの定規」が備わるというか。

中西:その言葉は、江戸時代の方の言葉にインスパイアされているのですか?

桜井:「こころの定規」というのは私が作った言葉なのですが、建部賢弘というのも江戸時代の数学者の心持ちに触れていくなかで、日本人の心の源泉には何があるんだろう、ということに興味が移っていきました。その一つの言葉が「こころの定規」で。つまり白銀比、正方形、一切の無駄を省いたあの正方形を良しとする、そういう感性や感覚が、僕たち日本人にはDNAで受け継がれているんじゃないか、という私の仮説です。壮大な仮説です。

中西:ははあああ。

桜井:建部は非常に優秀な数学者で、きちんと言語化しています。そのおかげで現代日本の数学がある。数学の礎を作ったひとりですね。それから、岡潔。芭蕉のことを言っている数学者なんて自分しかいないだろうと思っていたら、岡潔が語っていたんです。彼は世界的な数学者です。

中西:数学者が言語化をしているのですね? それはぜひ、具体的にお聞きしたいです。

桜井:「美の中における調和を求めるのが芸術、真の中における調和を求めるのが数学」と言っています。それから、「数学をやろうと思うなら、一番良い参考書は芸術です。(中略)だから少なくとも万葉と芭蕉は分かってほしい。日本民族の心の色どり、それを分かってほしい」と。これは『数学セミナー』の1968年8月号からの引用ですが、芭蕉と言っていることにびっくりしました。そしてなんと、岡潔の言葉に、十四と十五が出てきます。十五が完璧なんです。

中西:十五が完璧!龍安寺の石庭とつながりますね。

桜井:岡潔は人間の感覚を「識」という言葉で表わして、動物は視覚、味覚、臭覚、聴覚、触覚の五識を持つ。人間はそれ以上の「識」を持つと。そのなかで、パーフェクトが十五。岡潔は十五識の人間は松尾芭蕉だけと言っています。道元禅師ですら十四識だと。

中西:ということは、松尾芭蕉はたくさんのひだを持っていて、色々なことが身体に引っ掛かって、それを全部言葉にできる、というようなことですか。

桜井:14歳の僕が芭蕉の俳句にあれだけ心を動かされたのは、十五識を持った芭蕉が詠んだからなのでしょう。

中西:ひだを増やすためにはどうしたらいいですかね?

桜井:日本の自然に触れることだと思います。これがサイエンスナビゲーターとしての僕の原点ですね。僕は日本の風景を見て成長していった。この大自然の本物の美というものを、どれだけ享受するか。それによって、感性が磨かれていく。

中西:岡潔さんは西洋人が八識、東洋人が九識、日本人が十識あると言っていますが、これは季節感がもたらしているということでしょうか。

桜井:そういうことです。こんなことを言ったらヨーロッパ人に嫌がられるかもしれないけど、違いは風景なんだと思いますよ。

中西:日本の風景は季節によって細かく変わっていくし、見えるものも、食べるものも、呑むものも変わっていく。

桜井:それで我々の身体はできているし、と同時に心もできているわけだから。何をするにしても、そこなんだろうなと思うんですね。

中西:斜めは無限の可能性を秘めている、とくにサッカーではそうだと思っているので、今日のお話は確信に変わりました。日本人のなかには斜めの感覚が当たり前に宿っているというか、黄金比を操りながら白銀比を表現できれば、西洋の人たちを上回れる可能性があるし、上回ることができると考えることができます。

桜井:今日お話したのは僕の仮説で、人生をかけて実証したいと思ってきたわけですけど、中西さんにサッカーで実証してもらえたら、これほど嬉しいことはないですね。

テキスト:戸塚啓(スポーツライター)

Profile

中西哲生 Tetsuo Nakanishi

スポーツジャーナリスト/パーソナルコーチ。現役時代は名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレイ。現在は日本サッカー協会参与、川崎フロンターレクラブ特命大使、出雲観光大使などを務める。TBS『サンデーモーニング』、テレビ朝日『Get Sports』のコメンテーター。TOKYO FM『TOKYO TEPPAN FRIDAY』ラジオパーソナリティ。サッカー選手のパーソナルコーチとしては、当時インテルに所属していた長友佑都を担当することから始まり、現在は永里優季、久保建英、中井卓大、斉藤光毅などを指導している。

桜井進 Susumu Sakurai⁠⁠

サイエンスナビゲーター®。東京理科大学大学院非常勤講師。東京工業大学理学部数学科在学中から予備校講師として教壇にたち数学や物理を楽しく分かりやすく生徒に伝える。2000年にサイエンスナビゲーターを名乗り、数学の歴史や数学者の人間ドラマを通して数学の驚きと感動を伝える講演活動をスタート。東京工業大学世界文明センターフェローを経て、現在に至る。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。『雪月花の数学』『面白くて眠れなくなる数学』など著書多数。

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