Park College #10

哲GAKU 第3回「中西メソッド×耳ひっぱり」(後編)

Park Collegeでは、新たな連続講座「中西哲生の哲GAKU」をオンラインでスタートしました。(毎月14日開催。全12回予定、無料。)

第3回目は「中西メソッド×耳ひっぱり」をテーマに、1日1分であらゆる疲れがとれる「耳ひっぱり」などの著書を持つ、ボディワーカーの藤本靖をゲストに迎えて、2020年11月14日(土)に実施されました。

前編に続き後編も、さまざまな分野の知見をスポーツ技術に応用しコーチする中西哲生の視点から、ぜひ自身の学びや気づきに繋げ、楽しんでいただければと思います。

「久保建英選手のドリブルは、ボールをまとうような感覚」

トーク中の中西哲生

藤本靖(以下、藤本):『中西メソッド』では関節を曲げたまま動くと言っていますよね? これは実はすごく奥深い話で、たとえば能のすり足は関節を曲げたまま動く。あれは重心を落としているだけではなく、関節を曲げたまま動くことで弾性力を出しています。いま競技用義足の開発をしている方の取材・調査をしているのですが、「一般の人とアスリートの『走る』は根本的に違う。一般の人は屈曲伸展運動で前に進んでいく。

中西哲生(以下、中西):曲げる、伸ばす、ですね。

藤本: 一方、アスリートはバネのように地面を蹴っていると。だから、筋肉を曲げ伸ばししないで、同じ長さで使っている。

中西: 選手たちに「関節を曲げたまま動いたほうが、エネルギーをしっかりため込める」とか「能のように重心を下げるとサッカー選手は足を出せなくなるので、下げないままで」と説明すると、窮屈に感じるみたいです。日本人は骨盤が前傾していないので、骨格的にも関節が伸びやすい。伸び上がりたい感覚があるようで、曲げて立つこと自体がストレスになる。そこで僕は、「サイドステップは関節を曲げずにやる? 伸びたままバックステップする?」と聞くと、「ああっ、そうですよね」となります。

藤本: 『中西メソッド』にある軸足ドリブルの話を聞かせてください。

中西: 久保建英選手のドリブルは、身体からボールが離れない。利き足の左足でボールを突いて前へ運んでいくのではなく、右足の股関節でボールを押していくようなイメージです。ボールが身体にまとわりつくような状態にしたい。いつでもパスを出せる、いつでもシュートを打てる状態にしたくて、選手には「煙のように」と言うのですが、ボールをまとうような感覚ですね。それが軸足ドリブルです。

藤本: 軸足の腸脛靭帯を固めて踏ん張ると、軸足ドリブルにならないですね。軸足で踏ん張るのではなく、柔らかく、バネを使っているのでしょう。

中西: そう、外側を使っています……ああ! 腸脛靭帯を使っているのですね。

藤本: 弾性力を使っているのだと思います。それと関連したお話で、哲生さんは選手に重心の位置を指摘していますよね?

中西: 重心を下げないでほしいんです。

藤本: それは大腰筋をうまく使うということです。それから、人間の身体のなかの基本的なリズムは心拍と呼吸です。心拍と呼吸をリズム良くするには、胸を固めたくない。

中西: 僕も藤本さんと出会ってから、胸を固めないように意識しています。重心を上げると肺、横隔膜が窮屈にならなくて、なおかつ姿勢も良くなる。重心を上げることで、胸にいい意味での緩みがあると全然違います。

藤本: スポーツにおける「身体性」では呼吸と姿勢が大事で、身体の構造で言うと横隔膜(呼吸)と大腰筋(姿勢)が大事です。引っ張り合うような形になっているので、お互いに影響を与え合う。いわゆる筋トレでそのバランスを取ることはできないのですが、すごく簡単にできる方法があります。

中西: えっ、どんな方法ですか?

藤本: 忍者です。

中西: ええっ、忍者ですか?

藤本: 抜き足、差し足、忍び足は、大腰筋と横隔膜のバランスを取る、上半身と下半身のバランスを取るメソッドと言っていいものです。暗がりのなかを何かにぶつかることなく、物音を立てずに歩かなければいけない忍者は、腰を落としてカカトから足を上げて、つま先から降りる。この動きは、横隔膜と大腰筋が引き合うように使わないとできない動きです。そして、横隔膜と大腰筋に影響を与えているのが、目、鼻、口、耳なんですね。

「現代人が感じているストレスは首から上にある。目、鼻、口、耳の緊張が横隔膜と大腰筋に降りくるので、緩めないといけない」

トーク中の藤本成之

中西: いよいよ、『耳ひっぱり』の話に入っていきますね。

藤本: 現代人が感じているストレスは、どちらかと言えば首から上にあるので、目、鼻、口、耳の緊張が横隔膜と大腰筋に降りてきてしまっています。なので、緩めないといけない。

中西: 目、鼻、口、耳をどうやって緩めるのか。それが最初はまったく分からなくて。

藤本: 目、鼻、口、耳は、頭蓋骨の蝶形骨に集約されています。蝶形骨は頭蓋骨の中心にあり、ありとあらゆる骨に設置していて、横隔膜と筋膜でつながっています。なので、骨が歪んだり動かなくなったりすると、横隔膜も動きにくくなってしまう。スポーツにとって大事な横隔膜と大腰筋を使えるようにするには、まず蝶形骨を整えないといけない。曹洞宗の開祖の道元禅師はすでにこのことをおっしゃっていて、座禅の心として「調身、調息、調心」の三つが全部つながっていると。それを解剖学的に見ると、身は大腰筋、息は横隔膜、心は意識とか思考で蝶形骨です。

中西: その三つを整えるのが座禅なのだと。

藤本: と、僕は解釈をしています。で、蝶形骨を緩める耳ひっぱりのワークをお伝えしますと──。目線は目の高さのままちょっと遠くを見ます。左右の耳の付け根、くぼんだところに中指を引っ掛けて親指と挟む。お猿さんの耳のように引っ張るのではなく、頭から耳を少し外す、少しすき間を作るように2、3ミリぐらい軽く引っ張ると、頭の中心がふっと抜けて、すき間ができたような感じがします。そこに呼吸が通っているような。

中西: そうすると、鼻が空気を吸いやすくなりますね。

藤本: 遠くを見ることを忘れないでください。姿勢も伸びやかになっていきます。横隔膜も動いてくるというか、詰まっていたものが自然に溶けていく。で、そのままゆっくり手を離すと、耳の中がすごく通る。それから、耳を引っ張ると声も出しやすくなります。

中西: 声を出すと身体のなかに響くような感覚になります。

藤本: 耳を引っ張った状態で動くとか、声を出してみるとか、色々と組み合わせてもいいです。蝶形骨をリセットすることで身体全体を良くする、ということです。

中西: 耳ひっぱりはラジオの仕事前に必ずやっています。当たり前のことでこんなにも身体が変わるんだ、ということを皆さんにも体感してほしいですね。

藤本: 感染対策でマスクを着けていると、耳を前に引っ張られている状態なので、目、鼻、口、耳がより詰まりやすくなっています。蝶形骨が圧迫されて、表情が動きにくくなっている人も多い。コロナ禍のこの時代には、とくにやっていただければと思います。

(注:この他にもYouTubeで簡単にできるワークが紹介されています。ぜひご参照ください)。

「シンプルなものがすごくいい影響を与えてくれることを、『耳ひっぱり』に教えてもらいました」

トーク中の藤本成之

藤本: 目、鼻、口、耳を緩めるワークは、そもそもの僕の専門分野である自律神経を整えることにも関係していまして。自律神経は緊張とリラックスの波を交互に描くのが正常なのですが、波を描けない人が増えています。生理学で「凍りつき」と言われるもので、緊張状態が続くのは高止まり、リラックス続くのは低止まりです。どちらか一方に固まっている人が多いのです。

中西: ストレスフルな状況に置かれている人がそれだけ多い、ということですね。

藤本: それを何とかしなければいけないところから目、鼻、口、耳につながってくるのですが、自律神経が固まっている状態を無理にリラックスさせようとしても、できないんですね。神経の仕組みが壊れているというか、スイッチが入っていない状態なので、スイッチを入れ直してあげることが大事です。そのスイッチを入れ直すというのが、覚醒というものです。自律神経と脳神経を覚醒させて、「飽きない状態」を作ってあげるという。

中西: 選手の指導をする際に、少しずつハードルを上げていくことに似ていますね。

藤本: そうです。緊張とリラックスの自律神経は勝手に起こる波なので、コントロールできません。働きかけることができるのは「覚醒を上げること」です。「リラックスしているけれど頭は冴えている状態がいい」と言われますが、僕自身は「覚醒しているからリラックスもできる」と思っています。ストレスを抱えている現代人に必要な働きかけは、「リラックスしましょう」ではなくアクティベーション、「ちゃんとスイッチを入れましょう」だと考えます。

中西: アクティベートを具体的に説明すると?

藤本: スポーツ選手への応用がすでにありまして、視覚障害競泳の富田宇宙選手のデジタルトレーニングにお付き合いさせていただいています。視覚障害の選手に一番大事なのは、覚醒を上げることなんですね。彼らは目を閉じているので、脳波で言うと眠りの時に出てくるシータ波が、つねに出ています。すごくスローな脳波です。その状態でいきなり100メートルを全力で泳げと言われても……。

中西: 覚醒していないですね。

藤本: そうなんです、気がついたら100メートル終わっていたということになりかねない。色々とやった結果、『耳ひっぱり』で紹介したワークが一番いいと(笑)。

中西: 本当ですか!

藤本: 頭の働きが覚醒することは、データでも取ってあります。

中西: 『耳ひっぱり』で紹介されているワークは、どれもすぐにできるものばかりで、とても分かりやすい。シンプルなものがすごくいい影響を与えてくれることを、あの本に教えてもらいました。

藤本: いわゆるサイエンスと呼ばれるのは身体で、その一歩先にあるサイエンスとしての「身体性」を探求するには、いままでの枠組みの一歩先をいかないといけない。そこは日々工夫をしながらやっているところです。

中西: 僕も今日の学びを生かして、選手たちにフィードバックしたいと思います。ということで第3回『哲GAKU』のゲストは、ボディワーカーの藤本靖さんでした。ありがとうございました。

藤本: ありがとうございました。

Profile

中西哲生 Tetsuo Nakanishi

スポーツジャーナリスト/パーソナルコーチ。現役時代は名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレイ。現在は日本サッカー協会参与、川崎フロンターレクラブ特命大使、出雲観光大使などを務める。TBS『サンデーモーニング』、テレビ朝日『Get Sports』のコメンテーター。TOKYO FM『TOKYO TEPPAN FRIDAY』ラジオパーソナリティ。サッカー選手のパーソナルコーチとしては、当時インテルに所属していた長友佑都を担当することから始まり、現在は永里優季、久保建英、中井卓大、斉藤光毅などを指導している。

藤本靖 Yasushi Fujimoto⁠⁠

上智大学非常勤講師(神経生理学、ボディワーク)。東京大学経済学部卒業。東京モード学園ファッションスタイリスト学科卒業。海外経済協力基金(現、国際協力機構)にて政府開発援助の業務に関わる。東京大学大学院身体教育学研究科修了。自律神経系の科学的探究とボディワーク実践の中から「快適で自由な心と身体になるためのメソッド」を開発。民間企業、研究機関、公的機関などと数多くの協業を実施。「脳幹リセットワーク人間関係が楽になる神経の仕組み」(講談社)など著書多数。現在は、自律神経系・脳神経系測定のシステム開発に注力し、 ヘルスツーリズム・ワーケーションなどビジネスマンのセルフマネジメントに関する新時代のプログラム構築にとり組む。

Related Class