Park College #10

哲GAKU 第3回「中西メソッド×耳ひっぱり」(前編)

Park Collegeでは、新たな連続講座「中西哲生の哲GAKU」をオンラインでスタートしました (毎月14日開催、全12回予定、無料)。 スポーツジャーナリストでパーソナルコーチも務める中西哲生が独自に構築したサッカー技術理論「中西メソッド」は、長友佑都、久保建英、中井卓大など日本のトッププレイヤーたちが実践して成果をあげていることで、あらためて注目を集めています。しかし、このメソッドが、ピアニスト・脳科学・数学・音楽・料理・建築・寺社仏閣など異業種や日本文化からも着想を得ていることは、まだあまり知られていません。この連続講座「哲GAKU」では、さまざまな分野の専門家をゲストとして迎え、その功績の秘密を言語化し、「中西メソッド」のさらなるアップデートを図っていきます。

第3回目は「中西メソッド×耳ひっぱり」をテーマに、1日1分であらゆる疲れがとれる「耳ひっぱり」などの著書を持つ、ボディワーカーの藤本靖をゲストに迎えて、2020年11月14日(土)に実施されました。マスク時代に活用したい疲労解消法や、「耳ひっぱり」が姿勢を良くする!? 頭の軸、蝶形骨の役割とは・・・。⁠そんなお話が聞けました。

サッカーやスポーツの技術を向上させたい方も、スポーツにはあまり縁がない方、指導する立場の方も、さまざまな分野の知見をスポーツ技術に応用しコーチする中西哲生の視点から、ぜひ自身の学びや気づきに繋げ、楽しんでいただければと思います。

「太ももの筋肉をうまく使うには、全然違うところを意識したい」

トーク中の中西哲生

中西哲生(以下、中西):9月からはじまりましたこの『哲GAKU』は、Ginza Sony Parkでの新たなオンラインイベントとなっています。僕はスポーツジャーナリストと同時に、サッカー選手のパーソナルコーチとしても活動していまして、そこで『N14中西メソッド』を用いています。これは、サッカーやスポーツと直接的に関連のない日本の文化や科学、異業種などからもヒントを得ているのですが、今回も『中西メソッド』に影響を与えてくださった素敵なゲストにお越しいただいております。ボディワーカーの藤本靖さんです。

藤本靖(以下、藤本):よろしくお願いいたします。

中西: 今回は藤本さんのご著書『耳ひっぱり』のお話も聞いていきますが、ボディワーカーとはどういう仕事なのでしょうか?

藤本: ジムでトレーニングをするのが筋肉を鍛えて強くするのに対して、ボディワークは筋肉を柔らかくして使いやすくするものです。

中西: 筋トレのように、重たいものを持ち上げたりはしないのですか? 家のリビングでもできる?

藤本: すぐに、気軽にできます。いまは個人のクライアントを見ていまして、スポーツ選手、ダンサー、ミュージシャン、俳優さんなどの身体を使って表現をする方から、サラリーマンや主婦の方に個人セッションをしています。スポーツ選手で一番多く見ているのは競輪選手です。

中西: 競輪選手はかなり鍛え上げているイメージですが。

藤本: 一例をあげると、太ももの筋肉をうまく使うには、筋肉そのものではなく全然違うところを意識したいのです。

中西: 使う筋肉を意識しろと良く言われますが、そうではない?

藤本: 太ももの外側にある腸脛靭帯という組織をうまく使うことが、すごく大事だというのが僕の考えです。

中西: 足の外側を意識して使う?

藤本: そうです。人間とチンパンジーの歩行の違いを調べている研究者のグループによると、人間は腸脛靭帯があるから二足歩行でスムーズに走ったりできる。チンパンジーと人間では、腸脛靭帯の弾性力が15倍から20倍違うと言われています。

中西: それは使わないともったいないですね!

藤本: 腸脛靭帯を使わないと人間と言えないぐらいに大事です。腸脛靭帯の弾性力を引き出すことで、筋肉が必要以上の仕事をしなくても済むのです。

中西: なるほど。

藤本: 動作でご説明すると、競技用の自転車を漕ぐ姿勢を取ると、胸が詰まって胴体が固まってしまう。で、太ももがパンパンになっていく。そうではなくて、腸脛靭帯を緩めるように、振るような感じで足を動かすと、上半身が自然に連動して動きます。

中西: 固まっている感じが無いですね。

藤本: 身体全体を使って動いているので、身体の中の筋肉が自然と使われるようになります。腸脛靭帯を揺らすように意識することで、弾性エネルギーが生まれているのです。

中西: 僕も足の外側を使うことは日頃から考えていて、足の小指や薬指を意識しながら外側を使うと、身体が緩んでいく感覚を得られます。身体が縮まないですし。

藤本: ホントにちょっとしたことなのですが、それでパフォーマンスは上がります。

「右足のキックのクオリティが低いのなら、右足ではなく左手に原因があるかもしれない」

トーク中の藤本成之

中西: 藤本さんは僕と出会ってすぐに、トレーニングに来てくださいましたよね。

藤本: 『中西メソッド』は普通のスポーツのトレーニングと全然違うものだ、と感じました。根本思想のところで言うと、コーチが教えたいことではなく、選手がやりたいことをやらせる。それは神経の仕組みでいうと、コントロールではなく感覚を大事にすることです。

中西: トレーニングの前に、選手に「今日は何をする?」と聞きます。色々なメニューは用意していますが、本人がやりたいことをやりましょうと。

藤本: 神経には自分で勝手に整う能力があります。自分のなかで勝手に整って本来の力が引き出されるというのは感覚です。そこでは、自分がどう感じているのかが大切で、『中西メソッド』にはトレーニング全体においてそういう要素が組み込まれています。

中西: 試合のなかで右へドリブルするのか、左へドリブルするのかを選ぶのかは選手自身の感覚です。どちらにも行ける方法をどれだけ託せるのかが、パーソナルコーチの仕事だと思っています。

藤本: 『中西メソッド』は部分最適より全体最適ですよね。右足より動きにくいから左足のトレーニングをするとか、上半身が緊張しているからリラックスさせるとか、身体のうまくいっていない部分を改善するのが普通のトレーニングですが、哲生さんはそうじゃない。ひとつ例をあげると、呼吸を意識させながら片足立ちをやらせているじゃないですか?

中西: はい、かなり取り入れています。

藤本: 片足立ちはスポーツで一番重要な重心移動の動きですが、片足立ちに呼吸を加えると身体全体を意識するようになる。片足で踏ん張って立つというところから、身体全体の広がりにつながっていく。解剖学的にも、すごく理にかなった指導方法です。

中西: 本人の気になる部分とか、試合で問題になっているところだけに着目すると、付け焼刃的な対処になりがちなので、それがなぜ起こったのかという原因をいつも探します。右足のキックのクオリティが低いのなら、右足ではなく左手に原因があるかもしれない。近いところではなく遠いところから原因を探ります。

藤本: それはまさにボディワーク的ですね(笑)。それから、『中西メソッド』はできそうでできないことをいいあんばいでやらせていますね。しかも、やることが細かく変わっていく。

中西: すぐにできたら、選手はつまらないですから。できるようになったらより速くとか、回数を増やすとか、僕がちょっかいを出すとか。ハードルを少しずつ上げて、進化させていく。

藤本: その加減が絶妙だなと感じました。

中西: 難し過ぎると「いいや」となってしまう。ちょっとずつハードルが上がっていく設定の仕方は、すごく大事だと思っています。

藤本: それによって選手も、楽しみながら、なおかつぼうっとはできないみたいな(笑)。頭は休められない。

中西: 久保建英選手はトレーニング中に、「ああ、これは違う」とか「だんだん分かってきたぞ」とか、自分と対話をしています。それによって徐々に会得していくような。選手本人がそういう気持ちになるメニューの構築は考えますね。

藤本: ちょっとずつ覚醒状態を作っていくことが──生理学ではそう言います──学習するうえでもっとも効率がいいのです。選手へのアプローチでは、ロジカルに説明する場合と、とにかく一度体験してもらう場合を使い分けているのですよね? トップダウン的とボトムアップ的な指導を。

中西: 感覚的な選手に論理的に説明しても、なかなか理解してもらえません。「こういう理屈だからこうしたほうがいいよ」と説明をしても、頭のなかにクエスチョンマークが浮かぶでしょうから、やってみたら自然とできるようなトレーニングをするようにしています。「JUST DO IT」型と僕は呼んでいるのですが、トップダウンもボトムアップもどちらも必要ですね。

藤本: 僕は身体の専門家なので、「実際にやってみてください」という方法を重視したくなるのですが、認知的な働きかけのほうが効果のある人がいることは、データの裏付けがあります。

中西: データと言えば、僕はサッカーワールドカップやヨーロッパ選手権の全ゴールをデータ化して、「このシュートが一番決まりやすい。だからこの練習をしましょう」と選手に見せます。データを見せれば、選手は「そうなんだ」と納得してくれますので。

2人のトーク中場面

藤本: 『中西メソッド』は身体性を伝えていると思っています。「身体性」と「身体(からだ)」は違うものと定義していて、身体は西洋医学的に言うところの健康、トレーニング科学的で言う運動能力、目に見えるものであり定量化できるもの、そして自分の意志でコントロールできるもの。それに対して、哲生さんが伝えている「身体性」は、一義的にコントロールできないもので、どちらかというと感じるもの、内側から沸き上がってくるもので、目に見えなかったり定量化できない。「身体性」は外からの情報に対して自分がどう感じるか、どう反応できるかですね。

中西: 相手の動きに対してどう反応するか、といったことですか。

藤本: そうです。相手の動きに対して、どう感じてどう反応するのかが「身体性」で、自分が何をやりたいのかが「身体性」のベースなんですね。なんですけれど、いまの学校教育やデジタル社会では情報が多過ぎて、外から入ってくる情報に対して自分がどう感じているのかを、キャッチアップする余裕がありません。

中西: 確かに。どの情報を使っていいのかが分からないですね。

藤本: 情報はたくさんあるけれど、自分がどう感じているのかが不在なので、心身のバランスを崩してしまうところがあります。自分が何をしたいのかが分からない、という人が若い世代を中心に多いんです。

中西: 筋トレとかトレーニングではどうにもならない部分があります。寝ているときに自分の呼吸をコントロールするのは無理ですが、普段からいい呼吸をしていればオートマティックに良くなるとか、そういうことは可能です。藤本さんがやっているのはそういうことで、身体を良くしたい、健康になりたいと誰もが考えるけれど、それって実は難しい。難しいけれど、普段からできることはあるということを、後半部分で伝えていければと思います。

(以下、後編へ続く)

テキスト:戸塚啓(スポーツライター)

Profile

中西哲生 Tetsuo Nakanishi

スポーツジャーナリスト/パーソナルコーチ。現役時代は名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレイ。現在は日本サッカー協会参与、川崎フロンターレクラブ特命大使、出雲観光大使などを務める。TBS『サンデーモーニング』、テレビ朝日『Get Sports』のコメンテーター。TOKYO FM『TOKYO TEPPAN FRIDAY』ラジオパーソナリティ。サッカー選手のパーソナルコーチとしては、当時インテルに所属していた長友佑都を担当することから始まり、現在は永里優季、久保建英、中井卓大、斉藤光毅などを指導している。

藤本靖 Yasushi Fujimoto⁠⁠

上智大学非常勤講師(神経生理学、ボディワーク)。東京大学経済学部卒業。東京モード学園ファッションスタイリスト学科卒業。海外経済協力基金(現、国際協力機構)にて政府開発援助の業務に関わる。東京大学大学院身体教育学研究科修了。自律神経系の科学的探究とボディワーク実践の中から「快適で自由な心と身体になるためのメソッド」を開発。民間企業、研究機関、公的機関などと数多くの協業を実施。「脳幹リセットワーク人間関係が楽になる神経の仕組み」(講談社)など著書多数。現在は、自律神経系・脳神経系測定のシステム開発に注力し、 ヘルスツーリズム・ワーケーションなどビジネスマンのセルフマネジメントに関する新時代のプログラム構築にとり組む。

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