Park College #09

哲GAKU 第2回「中西メソッド×勝負脳の鍛え方」(後編)

Park Collegeでは、新たな連続講座「中西哲生の哲GAKU」をオンラインでスタートしました。(毎月14日開催。全12回予定、無料。)

第2回目は「中西メソッド×勝負脳の鍛え方」をテーマに、「勝負脳の鍛え方」の著書を持つ、脳外科医の林成之をゲストに迎えて、2020年10月14日(水)に実施されました。

前編 に続き後編も、さまざまな分野の知見をスポーツ技術に応用しコーチする中西哲生の視点から、ぜひ自身の学びや気づきに繋げ、楽しんでいただければと思います。

「足を使うスポーツは股関節を使ってイメージを作る」

才能を発揮する勝負脳に関する図

中西: 『勝負脳の鍛え方』を読んで驚いたのが、野球のバッターが150 キロ以上のボールを打つ話です。ピッチャーが投げたボールがホームベースへ届くまでに0.45秒。それに対して、脳の指令から身体が動くまでが0.3秒。スイングはそこから0.2秒かかるそうです。それでなぜ、打てるのか?

林: 人間にはイメージ記憶というものがあります。以前はこうで、方向はこうで、スピードはこうだというのは空間認知脳で判断されていて、三つの能力によってコントロールされています。ひとつは目。もうひとつは言葉。言葉ではなく音でもいい。このふたつでイメージを作って、普通は運動をしています。ところが人間にはもうひとつ、目に見えないところで空間認知脳をコントロールしている場所があるのです。それが股関節です。

中西: 股関節ですか!? その重要性については僕も学んできましたが……。

林: 股関節を自分で見ることはできませんが、股関節を意識して空間認知脳を使えるようになると、さきほどの野球の話なら、理論的に合わないスピードのボールでも打てます。人間の身体で、間合いとか距離を自然と測る機能が股関節にあるのです。股関節は後ろから見ると、鼠径部のちょっと内側にあって、骨盤に対して斜めに付いている。真横から見ると10度から15度前に向いている。この股関節をきちっと使える方法を訓練していくのです。具体的には、足の指先を内側へねじると、開いていた股関節が締まります。

中西: プロ野球では、打撃の神様と呼ばれた川上哲治さんが「ボールが止まって見えた」と話しています。これはどのように説明できるのでしょう?

林: 股関節を使うようになると、目を閉じてもここでボールをとらえられるというイメージを作れます。

中西: 股関節を使ってボールを捕らえている瞬間をイメージできていた。それを川上さんは、「ボールが止まって見えた」と表現したのでしょうか。

林: そうだと思います。私は「目からの情報は上半身で、身体からの情報は下半身」という話をしています。目からの情報収集は、足を使っていませんよね。それでもイメージができるので、目からの情報はほとんどが上半身のイメージ記憶なのです。

中西: だから野球のバッターやゴルフは、目からでもいい?

林: もうひとつは言語中枢を使うと本能を変えることができるので、それで飛躍的に動きは良くなります。

中西: この『哲GAKU』のように動きを言語化するというのは……

林: 正しいのです。下半身についてですが、股関節は足についているので、足を使うスポーツは股関節を使ってイメージを作らないと、本当の間合い、距離、方向性は、正しく認知できません。

中西: サッカーには欠かせませんね。

林: 先ほどの繰り返しになりますが、股関節は10から15度、人によっては20度ぐらい前へ傾いています。それをできるだけ直さなければ、ボールを正確に蹴ることはできません。

中西: 足をちょっと内側へ締めれば。

林: ちゃんと真横になります。それを意識しながらランニングをすると訓練になります。

「気持ちを込めて会話をしないと、同期発火が生まれない」

トーク中の林成之

中西: 『勝負脳の鍛え方』によれば、人間の知能は4つの段階を経て勝負脳へ行く。第一段階は、「ものを覚える」ですね。

林: ものを覚える時に重要なのは、感動することです。感動するとたとえ忘れても、同じような状況が生まれてくると「あのときはこうだった」となる。

中西: 感情と記憶はセットですか?

林: 気持ちを込めて会話をするのが、すごく大切で。日本人は気持ちを込めて会話をする能力が落ちてきています。先日、幼稚園の先生とお話をしたら、「子どもたちは私の顔を見ないで喋るのです」と言う。その原因は、お母さんがスマホを見ながら子どもと喋っているからです。

中西: それは……真剣に受け止めなければいけない事実ですね。指導する立場も同じでしょう。気持ちを込めて会話をしないと、同期発火が生まれない。

林: どうかお母さん方は、子どもの眼を見ながら、感動しながら喋ってほしいですね。感動する能力を鍛えるのは、すごく大切なのです。他人の失敗をつつく人がいますが、人間には武士の情けというものがあって、少しぐらい違ってもいいだろうと、私は思います。そのほうが、一度忘れた記憶も甦ってきます。

中西: ふたつ目は「忘れた情報を脳内で再構成する」。

林: それもやっぱり感動すること。再構成はひとりでにしています。面白いのは、人間は寝ると悪いことを忘れます。

中西: フフ、そうですね。

林: 2018年の新語・流行語大賞に、平昌オリンピックの女子カーリングチームの「そだね」が選ばれましたよね。

中西: 「そうだよね」という意味の言葉ですね。

林: あれはカーリングチームよりも先に、なでしこジャパンに教えたものでした。なでしこジャパンがまだ世界一になる前に、当時の監督だった佐々木則夫さんと対談をしたのです。「チーム力を上げるにはどうしたらいいですか」と聞かれたので、「選手の脳に入る会話をしてください。そうだねと言うと相手の脳に一度入ることになるので、もし相手の意見が違っていても、最初から間違っていると言う会話は禁止にしてください」と。

中西: そうしたら、ワールドカップで優勝した!

林: 何が起こったかというと、澤穂希選手がボールをキープしていると、チームメイトは彼女がどこへパスをするのかが分かるようになったと。彼女が何を考えているのか分かるぐらいに、「そうだね」と使い続けたから。

中西: 三つめは「内容を表現する」。これはほぼそのままのことなので、第4段階の勝負脳へお話を進めます。『勝負脳の鍛え方』では1、2、3番目の段階で学んだものを自分のモノにするために、プラスアルファで何かをする、と書いてありました。

林: 繰り返し、繰り返しの考え方であったり、訓練であったり、会話の力であったり、色々なものが自分の能力を発揮する方法になっていきます。最初は水泳で勝つ力を勝負脳と言っていたのですが、考えてみると色々な分野に広げてみてもほとんど成功する、成功しないものはないと言っていいぐらいです。

中西: その感覚を日々の生活のなかで持ち続けることが非常に重要なのですね。普段の生活にも当てはめられることばかりですから、誰にとっても役立ちますね。

「脳の仕組みから言えば、強いと思ったほうが勝つんです」

トーク中の中西哲生

中西: これから日本のサッカーを含めたチームスポーツが世界で勝つために、アドバイスはありますか?

林: 試合で格上と格下と言いますよね?

中西: サッカーなら日本がブラジルと対戦すると格下になります。

林: でも同じ土俵に立つのですから、正確には対等なのです。だから、格下でも格上に勝ちます。

中西: 勝てる方法がありますか?

林: まずは対等なのだという考えを持つことです。この方法を使っていま急速に伸びているのが、日本女子卓球界です。4年ほど前に代表チームの監督から、「中国の選手に23年間一度も勝ったことがないのです。どうしたらいいですか」と聞かれました。私はいまお話したように、「相手のほうが強いと思っているうちは絶対に勝てませんよ」と言いました。

林: 最初は平野美宇選手だったのですが、試合前に「相手は風邪を引いて下痢をしているから、今日は自分のモノだって口に出してから勝負しなさい」と言いました。

中西: そう思って試合をしなさい、と?

林: 思うのではなく、口にしなさいと。言語中枢を使うのです。試合は勝ちました。本人はすごく驚いて、「勝とうと思えば勝てるんですね」と(笑)。平野選手に続いて伊藤美誠選手も勝った。伊藤選手は中国で大魔王と呼ばれています。石川佳純選手も勝っていきました。日本の女子はあっという間に世界のトップへ行きました。

中西: それまでも勝とうと思っていたけれど、勝ったことがないので「勝てるのかなあ」という感じだったのでしょうね。気持ちの初期設定が重要なのだ、と感じます。僕は日本がワールドカップで優勝するための方法をずっと考えているのですが……。

林: たぶん「嘘だろ」と言われますよね。でも、「女子の卓球でこういうことが起きましたよ」と、みんなに言ってください。脳科学的にはブラジルが相手でも、イーブンの戦いになりますから。

中西: と言うことは、僕が日本がワールドカップで優勝するための取り組みを、続けていくことに意味があるのですね。

林: 続けるだけではなくて、意味を口にするのです。脳の仕組みから言えば、強いと思ったほうが勝つんですから。

中西: 今日は色々なお話をうかがってきましたが、いまこの難しい時代を生きている方へ、脳科学的な分野からメッセージをいただけますか。

林: 何を学んだとか勉強したとかいう堅苦しい話じゃなくて、今日は良かったと 思うほうが、人間は力を発揮すると思います。何事にも打ち込んで生きていくことが大事だと思います。

中西: 今回は林成之先生に様々なヒントをいただきました。

林: ありがとうございました、面白い対談でした。

中西: それでは皆さん、来月もまた『哲GAKU』でお会いしましょう。

テキスト:戸塚啓(スポーツライター)

Profile

中西哲生 Tetsuo Nakanishi

スポーツジャーナリスト/パーソナルコーチ。現役時代は名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレイ。現在は日本サッカー協会参与、川崎フロンターレクラブ特命大使、出雲観光大使などを務める。TBS『サンデーモーニング』、テレビ朝日『Get Sports』のコメンテーター。TOKYO FM『TOKYO TEPPAN FRIDAY』ラジオパーソナリティ。サッカー選手のパーソナルコーチとしては、当時インテルに所属していた長友佑都を担当することから始まり、現在は永里優季、久保建英、中井卓大、斉藤光毅などを指導している。

林成之 Nariyuki Hayashi⁠

日本大学名誉教授.。昭和14年富山県生まれ。日本大学医学部大学院医学研究科博士課程修了後、マイアミ大学医学部脳神経外科に留学。帰国後、日本大学医学部附属板橋病院にて、危篤患者に対する救命療法である脳低温療法を開発。平成5年日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター部長。18年日本大学大学院総合科学研究科生命科学専攻主任教授。現在、日本大学名誉教授。⁠

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